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第5章 おにいちゃんズの強欲

    第5章 おにいちゃんズの強欲  樹齢百年を超える藤棚が、海鵬学院の中庭を華やかに彩る。花盛りの現在(いま)は、幾千、幾万もの花房があたりを薄紫色に染め替えて、まさにインスタ映えスポットだ。  校旗が緑風にはためく放課後、空良はその藤棚に身をひそめていた。  花房がひと塊に右になびくと自分も右に、左になびくと自分も左にずれてカムフラージュをほどこしながら、そろぉと支柱の陰から顔を覗かせる。  ちい兄ちゃんは……いない、やった、撒き切った。  大和曰く、男子校はサバンナ以上に弱肉強食の世界。ゆえに人一倍ドンくさい空良は優秀なボディーガードが、 「つまり俺が護衛しとかないと、おまえなんかケツの毛までむしられちまう」  などとドヤ顔でうそぶく。  連休が明けてからこっちの大和は、世話好きという範疇(はんちゅう)にとどまらず過保護だ、と思う。登下校は必ず一緒に、というルールを例にとると、満員電車中で「むぎゅう」となりがちな空良の壁になってくれるのは、ありがたい。  電車がカーブに差しかかって揺れると、すかさず支えてくれるのもありがたい。  だが、しかし、 「転びかけるのをいちいち助けてやるのはタリィ」  との理由で抱きしめてきて、学院の最寄り駅に着くまでその恰好を保ちつづけるのは、赤ちゃん扱いがすぎてプンスカするようだ。  近くにいた女子高生が、リアルBL、と謎の言葉を交えてキャッキャッ囁き交わしながらスマートフォンを向けてきたのは肖像権の侵害だ、と思う。  校内でも大和のべったりさかげんには、時として周りがドンビく。  学食で残りひとつの空席を確保するが早いか、有無を言わせず空良を膝の上にさらい取り、 「『こうすりゃ、おまえだけ席が空くのを待つ手間が省けて合理的だろうが』って、なるほどだけど……」  ふたりで一脚の椅子を使用するシステムを導入すれば、倍の人数がいっぺんに学食を利用できるというメリットがある。デメリットは窮屈で食べにくいこと。

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