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第53話

 俺とテーブルの間におまえが挟まっているせいで皿に箸が届かない、ついては「あ~ん」をやれ。  そう催促されたのに応じてトンカツを大和の口に運んであげると、股間を押さえて前かがみになる生徒が続出するわ、風紀紊乱罪(ふうきびんらんざい)に当たると風紀委員がすっ飛んでくるわ。  夏至祭に備えて舞台度胸をつけるにはもってこいだったものの、 「あやかりたいだとか妬ましいだとか、非難囂囂(ひなんごうごう)な感じで、ちい兄ちゃん可哀想だった」    それにつけても当麻が執行部の面々を従えて学食にやって来たとたん大和を突き飛ばしたのには、ごめんなさい、だ。  大和が醤油差しを巻き添えに椅子ごとひっくり返ったのも、教頭先生がこぼれた醤油で足をすべらせて腰痛が再発する羽目になったのも、とどのつまり焦ったからだ。  節くれ立った幹に沿って、ずるずるとしゃがむ。当麻の姿が視界をよぎった瞬間、パニクり返った。大和と非常識なまでに仲がいい、と誤解を招くのを恐れた。  深読みされるのを避けたい理由はうまく説明できないが、 「ちい兄ちゃんは、ちい兄ちゃん以上でも以下でもないと思ってほしかったのかなあ……」  ひとひらの花びらを掌で受け止めて、地面にそっと置いた。  ところで、なぜ大和から逃げ回っているかというと、これから体育館でバスケ部の親善試合が行われるからだ。  対戦相手の姉妹校との通算成績は十八勝二十敗で、ポイントゲッターの大和は前回の試合でワンシュート差に涙を呑んだぶんも雪辱に燃えている。  空良は、もちろん最前列で応援する気満々だった。これを着てこい、とチアガールの衣装を渡されるまでは。  クラス劇の脚本によれば、空良は中盤以降美少女に扮する。  大和はぶっきらぼうに見えて根は優しいから、女装するのに慣れておくのも役作りの一環と考えて、わざわざ衣装をそろえてくれたに違いない。だが分厚いタイツが衣装一式に含まれていたとはいえ、チアガールのスカートは太腿がむき出しになる代物だ。  海鵬学院側の、出場メンバーの士気が下がって自爆するのがオチではないだろうか。

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