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第54話

 一陣の風に、指揮者がタクトを振ったように葉ずれが高まる。空良は花房を透かして体育館のほうを見やった。  バスケ部員はウォーミングアップを始めているころだ。試合を観戦する生徒にまぎれて体育館に入っちゃえば、こっそり()つチアリーダーの衣装抜きで大和の勇姿を拝める。  ただし、あの天才的なプレイヤーはちい兄ちゃん、と大声で自慢すると本人に見つかって強制着替え! だから注意すること。  藤棚から這い出すにつれて頬が紅潮する。姉妹校の顧問ならびに選手たちに歓迎の意を表するのも、生徒会長の職務のひとつかもしれない。  と、いうことは当麻も体育館にお出ましになるかもしれなくて、その可能性に思い至ると、さっそく妄想劇場の幕があがった。  ──やあ、お菓子作りのほうはどうしてる。クッキー以外のレパートリーは増えたかい。  ──シフォンケーキに挑戦中で、上手に焼けたらごちそうします!  当麻と観客席に並んで腰かけて、こんなふうに試合そっちのけで話が弾んで。帰りに、かき氷でも食べにいこうなんて誘われたりしたら喜んでお供しちゃう!    そのころ大和はコートの傍らで邪悪なオーラを振りまいていた。試合前のミーティングが行われていたが、右から左へと耳を抜けていく。  空良のやつ、チアの衣装を着るのは嫌だとごねたあげく行方をくらますとは、生意気だ。今夜は別バージョンの尻尾つきローターで、たっぷり懲らしめてやろう。  堪忍して、と涙ぐむのをキスであやして。そう、キスだ、熱烈キスだ。ラブラブっぽさ満点で、おまけにタケ兄を出し抜いてやれるとくれば一挙両得だ──ん?  リストバンドをむしり取った。ラブラブなんか、ちゃんちゃらおかしい。あんな、へちゃむくれなどオモチャにすぎない。  雑念を打ち払うべく腕を振り回すと、それは透明人間と闘っているように見えてチームメイトを恐怖のどん底に突き落とす。  そして顧問監督は決断した。大和はスターティングメンバーから外そう。

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