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第58話

 閑話休題。演目の〝チンデレラの憂鬱〟はパロディ色が濃い。  シンデレラにおける王宮の舞踏会は、タワーマンション内の、ペントハウスで行われるパーティーへと舞台を移す。  超セレブな御曹司を巡って壮絶なラブバトルが繰り広げられる、という設定にふさわしく、書割ひとつとっても金色のスプレーでアクセントをつけたきらびやかなもの。  御曹司に見初められれば一生食いっぱぐれなし、めざせ玉の輿、わっしょい!  脚本兼、演出の和田はとにかく厳しい。出演者陣が科白の読み合わせをしている間中、ひとりひとりへの注意点を細かくチェックしていく。 「『両性具有に生まれついた中でも、乙女とマッチョのツーパターンを併せ持つレア体質だけど、人並の幸せがほしいんだもん。パーティーに行きたぁい』」  そう、空良が情感たっぷりに科白を言っても及第点はもらえない。  和田は、すでにボロボロになった台本を振り回してストップをかける。 「違う、違う! 小沢くん、空良くんのほうね。御曹司から届いた招待状を義兄その一、その二が見せびらかしながら、おまえなんかペンペン草でも摘んでるのがお似合いと足蹴にする場面なんだ。悲壮感みたいなものを表現できないかなあ」 「ごめん……きゃふっ!」  突然、弓なりに躰を反らして爪先立ちになるはしから、大和がほくそ笑む。  足下で爆竹が炸裂したように、空良が急に妙ちきりんなポーズをとった裏には深い理由(わけ)がある。  話は三十分前に遡る。  腹痛を訴えた大和を保健室へ送り届ける途中、トイレに寄りたい、と言われた。個室のドアを開けるところまで付き添ってあげて、思う壺にはまった。  端的に言うと。あれよあれよという間に個室につれ込まれて、さらにさらに制服のシャツがはだけられて、可憐な乳首に五百円玉くらいの大きさでシール状のものがペタリ。

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