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第59話

  「滑舌がよくなる効果がある特別製の絆創膏だ。おまえ、ざ行がもごもごする癖があっから、貼っとけ」 「ちい兄ちゃん……」    黒目がちの目がウルウルして、 「優しい、ありがとう! あっ、おなかは?」 「もう治った、教室に戻るぞ」  腕にぶら下がってこられると、ちくりと良心が疼く大和だった。それはそれとして、武流に入れ知恵された通りの細工をほどこし終えてから現在に至る。  滑舌云々と称する品の正体は、それも小沢父が開発したアダルトグッズのひとつで、性感帯に微妙な振動を与えるマイクロチップが内蔵されている。  その名も〝ぷるぷるプリティ〟。  専用のアプリをダウンロードすれば、スマートフォンでの操作も可能な秘密兵器だ。  つまり、いつでも、どこでも乳首を狙い撃ちにできる。この手のものを大和に持たせると、鬼に金棒、いやキチ〇イに刃物だ。  現に▼マークをタップししだい、ぷるぷるプリティが唸りをあげる。 「『UFOを修理してくれた恩返しにパーティに行かせてあげるですって? 異星人さんは義理堅い』──ふぁっぷ……!」  (こま)やかに蠢く指でつままれたように乳首がびりびりと震えて、空良は飛び跳ねると、勢いあまってうずくまった。  御曹司役の酒井と、異星人役の飯島が先を競って空良の元へ駆け寄り、介抱する(てい)で背中を撫でまわす。  それにひかえ、和田は派手に舌打ちをする。 「ここでしゃがむとかって、ト書きに書いてある? 主役の自覚を持って真剣にやろうよ」 「だぁから言っただろうが、ドンくさいこいつに主役が務まるかよ。大根は降ろしちまえ」  いわば稽古場を設けるために、机は教室の隅に寄せてある。大和がかったるげにその中の一卓に尻を引っかけたせつな、教室前方の引き戸が開いた。 「練習中に申し訳ないが、おじゃまする」  当麻を先頭に、生徒会執行部の一行が列をなす。  各クラスの作業の進捗状況を確かめておくための視察──というのは表向きの理由だ。当麻は合法的に二年四組へ赴くべく策を講じた。すなわち、視察に名を借りて空良に会いにきた。

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