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第61話

「大役を任されてプレッシャーがかかるだろうが、きみは必ずやり遂げると信じている」 「買いかぶり? かもです」 「意外に自己評価が低いんだな。血のつながりがない彼を『ちい兄ちゃん』と慕ってやまないほど適応力が高いのが……」    もったいぶって語尾を濁すと、大和のほうへ顎をしゃくった。 「きみの長所だろうに」 「ありがとう、です。団結力を武器にクラスのみんなと、がんばっちゃいます」  などと会話が弾んでいるようでいて、その実、ふたりとも上の空だった。  当麻は、目的は果たした、立ち去る潮時だ、と自分を急かす一方で足が床にめり込んだように動けずにいた。  空良は、台本の要所要所に貼ってある付箋を剝がしては丸めた。じきじきに激励にきてくれるなんて、無敵王子と崇められるだけのことはある。  全部のクラスを順番に巡回している途中で立ち寄ってくれたにすぎないことは、わかっている。それにしては他の誰とも話そうとしないのが不思議だが、俄然、やる気が出た。  つぶらな瞳がきらきらと輝くと、誰の心の中にもあるベルが美しい音色を響かせる。当麻と、大和のそれはひときわ高らかに。 「あぁあ、どっかのスカした野郎が乱入したおかげでシラけちまったなぁ」  大和は聞こえよがしにぼやいた。副会長の中島以下が一斉に睨んでくれば、射殺す目つきで睨み返す。そして机の上に逆さまに積み重ねてある椅子の脚を摑んで、操縦桿がイカれたようにがたがたと揺らした。  あの、生クリームに餡子の塊をぶち込んだような甘ったるいやりとりは、なんなんだ。  ぷるぷるプリティをフル活用して、こっそり悪戯し放題プラス、へぼぶりを強調するよう働きかけて降板する方向へ持っていく。とんだ邪魔が入ったせいで計画がおじゃんだ。  生徒会長の権限を濫用するみたく俺の空良にべたべたするな──?   けたクソ悪い、と吐き捨てるように独りごち〝俺の空良〟を頭の隅っこに押しやる。  大和はスラックスのポケットに手を突っ込んで、空良と当麻の間をわざと行ったり来たりした。その様子はシンバルを叩きながら、くるくる回る猿の玩具の動きにそっくりだ。  さんざんオラついたにもかかわらず、黙殺されてムカつき、よって▼マークを連打。

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