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第62話
「ふ、ぁん……!」
乳首にぶるぶると刺激が加わったという生やさしいものではなくて、しびれ薬を塗ってある無数の針がいちどきに刺さったような衝撃に見舞われた。
その衝撃を緩和するようにペニスが萌む。のみならず先っぽがコンニチハをする。
空良は蒼ざめて内股気味にしゃがんだ。みんなが、とりわけ当麻が見ている前で勃っちゃうだなんて、どうなっているの?
おとなしくしなさい、とペニスに言い聞かせても、かえって包皮がめくれていくありさまだ。この調子では、スケベだエンガチョ、と囃 し立てられるのは時間の問題だ。
今後の高校生活を左右する一大事。薄ぼんやりと滑舌矯正シールなるものが元凶のような気がしても、大和のせいだとこれっぽっちも思わないあたりが、天然の天然たる所以 だ。
パニクり、そこでひらめいた。なので早速、腹這いになった。
このまま引き戸まで這い進み、あとは一目散に逃げる。この方法でいけば、校内で勃つなどみっともない、と当麻に軽蔑されることはない。
ずずず、ずずずと、さしずめ匍匐 前進の特訓風景だ。
衝突寸前のデモ隊と警官隊のように、二年四組側と執行部側は、教卓を挟んで対峙していた。殺気をはらんで静まり返り、そこに素っ頓狂に響き渡る〝ずずず〟。
一同、唖然として固まった。最近、推し人数赤丸急増中の小沢空良に、いったい何がとり憑いたんだ?
脱落した者から悪鬼の餌食になる。そんなルールに基づいて行われる根競べのように全員、身じろぎひとつしない。
その間も、のそのそ、ずるずると小さな躰はまっしぐらに引き戸をめざす。
カラスがベランダの手すりに止まって、けたたましく鳴いた。
当麻と大和が我に返るなり同時に動いた。ビーチフラッグを巡って技量を争うライフセーバーさながら空良に駆け寄り、当麻がゼロコンマ一秒早く、空良の傍らに膝をついた。
「足を痛めて立てないのか。遠慮せずに摑まりたまえ」
「滅相もない! だいじょぶ、これは……役作りなの!」
当麻は思わず生唾を呑み込んだ。ふっくらした唇が艶 めかしくわななく。あどけない顔立ちとのギャップがすさまじく、反則の域だ。
宇宙一美しいと自負する己の〝イキ顔〟に較べるとやや劣る、エロい表情 に魅せられて手足が独りでに動く。
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