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第6章 生徒会長の惑乱

    第6章 生徒会長の惑乱  風に乗ってミュージカル版〝レ・ミゼラブル〟の挿入歌が聞こえてくる。夏至祭の演目に合唱を選んだクラスが、がんばっている様子だ。  空良は歌声に合わせてハミングした。四時限目の途中から本降りになって、水墨画のように学校全体がけぶる。時計塔は校舎の裏手に位置し、通路で結ばれているものの、それは屋根あり、壁なしだ。  あの手紙は当麻かもしれない。そう思うと気が急いて、制服が湿ってもへいちゃらだった。  軽快な足音が螺旋階段に反響する。機械室の前に立ち、水滴が散ったブレザーをハンカチで拭いてから扉をノックした。  内側から扉が開くと同時に手がにゅっと伸びてきて、腕を摑まれ、引きずり込まれて、 「えっと『Tさん』? なんにも見えないんですけど……」  だしぬけに目隠し鬼が始まったようだ。  頭からすっぽりと紙袋をかぶせられて、視界が闇に(とざ)されたうえに、あちらへ押しやられ、こちらに突き飛ばされているうちに方向感覚を失う。  扉だと見当をつけた方向へすり足で進んでいるうちに、平べったいものにつまずいた。立ちすくんだところに、押し殺した笑い声を浴びた。 「ん、もう、こんなサプライズ面白くない」  空良は口をとがらせて紙袋をむしり取った──つもりが、いつの間にか首を一周する形に粘着テープで留めつけられている。  前世紀の囚人さながらの恰好で、しかも背中をこづかれた。震えあがるより、カチンとくるより、しゅんとなる。秘密の香りがしてロマンティック、と喜び勇んでやってきたぶんも失望感は大きい。  と、誰かが重々しく切り出した。 「小沢空良、貴様の当麻会長に対する()れ狎れしい態度は目に余る。申し開きができるか」 「やましいことなんか、ないもん」  胸を張ると、火に油を注いだ。 「泣いて土下座すれば罪一等減じてやるものを。情状酌量の余地がないと見なして、天誅を加える」  天誅、とタオルを口に押し当てて話しているように、くぐもった声が唱和した。 「ひい、ふう、みい……六人? くらいで寄ってたかって騙し討ちとかって卑怯でしょ」

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