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第67話

 精一杯きっぱりと言い返したものの、黙殺された。数人分の靴音が遠ざかり、扉が開閉するのにともなって蝶番が軋む。直後、何か重いものを引きずっているとおぼしい重低音がガタゴトと空気を震わせた。  暗闇の中に空良を置き去りにして。  壁を探り当てた。それから空良は背中をもたせかけて座り、足を八の字に投げ出した。息を吸って吐くたび紙袋が膨らみ、へこむ。  粘着テープを引きはがすさいに襟髪が何本かまとめてちぎれて、大抵ニコニコしている顔が珍しくプンプンとゆがむ。 「あえて犯行グループって呼ばせてもらうけど執行部の人たちっぽかった……えいっ!」  扉は外開きだ。ありったけの力を振りしぼって押しても、何かが(つか)えているとみえて数センチ程度しか開かない。  隙間から手を出すと壁にぶち当たった。扉のすぐ外は吹き抜けの廊下だったはずなのに? 頭部そのものがクエスチョンマークにすげ替えられたように、固まった。  機械室は文字盤の真裏にあたり、埃を嫌う性質上、密閉性が高い。明かり取りの小さな窓が天井近くに設けられ、弱々しい光が室内の様子をぼうっと浮かびあがらせる。  巨大な振り子が頭上を行ったり来たりするにつれて、大小四つの歯車がぎぃぎぃと回転する。正時になるとギロチンの刃が落ちる仕かけがほどこされているみたい。  すぱん、と首が()ねられたところを想像すると、ぞわぞわと鳥肌が立った。なるたけ隅っこに寄って、体育座りに縮こまる。 「おなかすいたぁ」  お弁当もスマートフォンも教室のロッカーに入れっぱなしだ。手紙を餌にほけほけとおびき出されるわ、〝T〟イコール当麻かもが独り相撲に終わるわ、ついでに閉じ込められるわ、おれのバカバカ、バカ! 「ちい兄ちゃんは正しかった。ごめんなさい」  生徒会執行部の面々、すなわち当麻の親衛隊の逆鱗に触れたが最後、おっかない目に遭う。あの忠告は、誇張でもなんでもなかった。直接の引き金となったものは、たぶん見せびらかすように姫抱っこしてもらった一件で、 「〝無敵王子・命〟の人たちの集まりなんだもんねえ……」  恨まれるのも無理はない。紙袋の皺を伸ばして丁寧にたたんだ。

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