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第69話
あっさり罠にかかったこちらもこちらだが、やり方が荒っぽいというか、
「先輩とたまにおしゃべりするくらい自由だもん、副会長さんたちのオタンコナス!」
扉に体当たりをかまして跳ね返された。ぺたりと座って〝T〟からの手紙を読み返す。
空良を疎ましく思う気持ちはわからなくもないが、ただ当麻に会いたかっただけなのに。そう思うと瞳が潤む。
磁石のS極とN極が引きつけ合うように、どうしようもなく当麻に惹かれる理由はうまく説明できない。気障な言い方をすれば魂が共鳴するものがある……?
噴き出した。当麻と運命の赤い糸で結ばれているかもなんて、独りよがりもいいところだ。ぴょこんと立ちあがり、拳を突きあげた。
「『y染色体が消え失せて乙女バージョンに変身、御曹司のパーティーに突撃ぃ!』」
などと空良が建設的に自主トレに励んでいたころ、大和は捜索の鬼と化していた。敏腕刑事並の執念深さでもって、あらゆる教室から教職員用のトイレに至るまで、しらみつぶしに調べて回る。
空良ときたら、バスケ部の連中に愛弟ハート弁当を見せびらかしに行っている間にトンズラこきやがった。雲隠れの常習犯め、あいつが好き勝手にほっつき歩くたびに、捜し歩く羽目になる俺の身にもなってみろ。
かくなるうえは鎖でつないで、俺から永遠に離れられないようにしてやろうか。
「エンゲージチェーンもありじゃね……って、空良、どこに隠れたあああああっ!」
エンゲージチェーンなる九文字が頭蓋で繰り返しこだまするごとに、心臓が爆裂する寸前までいく。
照れ隠しの咆哮が、ざあざあ降りの雨音をかき消してから二時間後の生徒会室へと舞台は移る。
当麻は、全校生徒を対象としたアンケートの集計結果に微笑を浮かべた。柄物の靴下は禁止、という校則の廃止を求める旨に賛同する生徒は十割に近い。
この結果に基づいて要望書を作成して、学校側との交渉に臨む。石頭の生徒指導の主任教諭を論破する自分は、ジャンヌ・ダルクのごとく颯爽として、さぞ美しいだろう。
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