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第70話

「少なくともアーガイルとボーダーは認めさせる。色についても現行の黒、紺、白に加えてカーキとグレイを解禁するとの言質(げんち)を取るべく断固として闘う」  議長の矢野が真っ先に拍手すると、抜け駆け禁止と言いたげに残りのメンバーが殺気立つ。そして口々に当麻を褒めそやす。 「会長の手腕をもってすれば、生徒ファーストの回答を必ず得られます」  当麻は鷹揚にうなずいた。全園児はおろか、教諭も保護者も虜にした幼稚園時代に始まって、称賛を浴びるのは慣れっこだ。というより熱い眼差しは、鏡には劣るものの活力源だ。 「では、次の議題に移ろう。最近一部の生徒の間で自転車のアクロバティックなレースが流行っていて、コースに用いられた花壇の縁石が破損……廊下が騒々しいな」  眉をひそめたそばから、荒々しい靴音が迫りくる。それが扉のすぐ外側に達すると同時に扉が蹴り開けられて、野獣……かと思えば小沢大和が詰め寄ってきた。 「てめえらグルか。俺の空良をどこに隠した」 「藪から棒に、なんの何の話だ」  当麻は長机に肘をついて、両手を組み合わせた。汗にまみれて怒りに引きつった顔を見あげると、だんッ! と天板を拳骨で殴り返してくる。 「昼休みに空良がいなくなった。弁当も鞄も教室に置きっぱ、(ひゃっ)パー、誰かに拉致られた」 「落ち着いて、順を追って話してくれ」 「だぁから、俺の空良をつれ去ったやつがいるっつってんだろうが。てか、陰謀集団のおまえらが、ぜってー、怪しい」  吼え、誰彼かまわず()め据える。  当麻は席を立った。優雅な身のこなしで大和と向かい合いつつも、全身の血が煮えたぎるようだ。  、俺の、だと? 所有権を主張するような言い方が癇に障って仕方がない。ひとつ屋根の下で暮らしているというアドバンテージを悪用して、義弟をモノにしたというのか。   義兄弟で乳繰り合おうが合意の上なら勝手にしろ、だ。だが断じて許せない、血反吐(ちへど)の海をのたうち回らせてやりたいと、めらめらと燃えあがるこの感情はなんだ、まさか嫉妬か。

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