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第72話
しかも空良が進んで慰み者になっていると察せられるあたり、ざわりと蠢くものがある。
あの、天然ぶりも可愛らしい下級生に限って下ネタ方面とは無縁に違いない、と思っていた。裏切られた感に、ホワイトボードに添えた指が鉤に曲がる。
その一方でベイビーズが後ろめたげに見交わすさまから確信した。小沢空良憎しに凝り固まって、こいつらやらかしたな。
当麻は、にこやかにカマをかけた。
「高等部の敷地は広い。隠れ家、秘密基地、呼び名は問わないが、それらをこしらえるのに打ってつけの場所は諸君、どこだと思う」
副会長の中島以下、そろって顔が強ばった。動揺が走った機を逃さず、たたみかけた。
「あいうえお、かきくけこ、さしす……」
……せそ、と素知らぬふりでつづけながら徐々に目力を強めていくと、庶務の佐々木が〝と〟に反応してパッとうつむいた。
当麻は、さっそく長い足をさばいて扉へと向かった。愛用のコンパクトミラーを賭けてもいい。空良は〝と〟で始まる場所に囚われている。
〝と〟といえば真っ先に思いつくのは図書室だが、司書が常駐しているという性質上、いわば檻には適さない。では、次点の候補は……、
「会長、白状します、実は俺たち……っ!」
議長の矢野が進み出た。当麻は、点数稼ぎと冷眼を浴びる彼の唇に人差し指を押し当ててた。二の句を封じたうえで微笑 いかける。
「小沢空良くんが消えた件は、きみたちが与 り知らないところで起きた。いいね?」
おイタがすぎる者たちにも寛容の精神で接する。美しい、美しすぎる、とナルシスト魂が歓喜にいななく。ともあれ〝と〟とは十中八九、時計塔を指す。
「おい、何かわかったのか!」
通用口に立ちはだかる大和を押しのけるのももどかしく、校舎を飛び出した。水煙を立てて屋外通路を突っ切ると、蔦に外壁を覆われた時計塔は、鈍色 の空の下でいっそうおどろおどろしい。
そこで怪訝に思い、振り向く。バスケ部の中心選手だけあって敏捷な大和が、当麻を追い抜いて時計塔に駆け込むどころか、屋外通路の支柱に抱きついたきり動かない。
当麻は緑青 がふいたドアノブを回す前に、念のために訊いた。
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