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第75話

「あいつ、そこにいるのか」  ようやく復活した大和が、ことさら尊大に顎をしゃくる。  力較べをするように、ふたりで机を押して押して押しまくったはずみに、勢いよく板が倒れて、危うく下敷きになるところだったのはさておいて。  案の定、扉が現れた。鈍い残響がこだまするなか当麻が扉を引き開けると、空良がきょとんと見つめ返してきた。  その澄んだ瞳に魂を射貫かれた、と感じるくらいの衝撃を受けた。擬音で表すと、ズギューン!! だ。  当麻は、よろよろと壁にもたれかかった。生徒会長に立候補したさいの演説に始まって、各種行事での挨拶もドンと来いの能弁家ぶりはどこへやら、口をぱくぱくとさせるのみだった。  大和は大和で、へなへなと(くずお)れた。  空良ひとりが通常モードで、ぺこりと頭を下げて曰く。 「先輩、ちい兄ちゃんも。えっと、むさ苦しいところでなんのおかまいもできませんが、いらっしゃいませ」  当麻は瞼をこすった。一瞬、巨大な歯車の下におままごとの道具を並べたゴザが見えた気がしたのは、目の錯覚か。  めくっていた袖を下ろし、ひと呼吸おく。怖かっただろう、俺が来たからにはもう安心だ。そう囁きかけて〝頼もしい当麻遼一〟を改めてアピールするとともに、蜘蛛の巣がへばりついている頭を撫でてあげたい。  理屈抜きにそうしたいのは山々だが、生徒会長という立場上、事情聴取のほうを優先しなければなるまい。なるまいが、白馬に乗った王子さまの見せ場だ。一個人としての感情に従って行動して何が悪い。  という調子でジレンマに陥っている間に、大和に先を越された。

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