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第76話

「おまえ、マジにバカ? あっさり監禁されるとか、そのへんの雀や鳩なんかよか警戒心が劣るわけ?」    空良はキャラにそぐわないことに仁王立ちになって言い返した。 「Tさんって人から、ここで待ってるって手紙をもらって。Tは当麻先輩のイニシャルかもって来てみたら罠……ちがくて、なんか手違いがあったの!」    自分を閉じ込めた(やから)をかばうとは天晴れだ。当麻はそう思い、と同時に胸が高鳴る。  空良と大和の間に割り込むと、 「俺の名前を(かた)れば、きみをおびき出せる。その前提に立って今回の一件が仕組まれたとおぼしいが、俺がきみのウィークポイントというのは満更でもない」  わざと回りくどい言い方でうれしさを伝えた。何割程度真意が伝わったのか、アヤフヤにうなずくさまに少々がっかりしたものの、腕を広げた。  遠慮はいらない、胸に飛び込んできたまえ、と奥ゆかしくもジェスチャーでいざなったのだ。  ところが白馬に乗った王子さまが、一転してピエロになり下がる。空良は、彼をひしと抱きしめる気満々の腕をすり抜けて、大和に抱きついていった。  プライドにが入った。当麻は胸ポケットからコンパクトミラーを取り出そうとして、やめた。屈辱感にゆがんだ様子も美しいだろう顔を眺めるくらいのことでは、鮮血が迸る心の傷は癒えっこない。  チクショー、と歯車が軋めくのにまぎらせて呟くにとどめて、努めて背筋を伸ばした。 「おなか、ぺっこぺこ。もう歩けない」 「甘ったれてんじゃねぇぞ。のお手を煩わせた罰に、俺を膝枕で耳そうじだかんな」  と、大和が〝膝枕で耳そうじ〟を強調しながら繰り返す。目つきも、栗色がかった髪をかき乱す手つきも、優越感にあふれていた。

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