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第77話

 当麻は、よそゆきの笑顔という仮面をかぶりなおした。先頭に立ってきびきびと階段を下りはじめるあたり、大丈夫、俺は落ち着いている。  だが、どす黒いものが腹の底で渦を巻く。ともすれば手すりに浮いた錆をこそげ取ってしまう。  これ見よがしに空良をかまう小沢大和が妬ましいなんて、当麻遼一ともあろう者が何をトチ狂っている?  螺旋状という構造も相まって、階段を下り切るころには空良への好意はねじれていた。当麻は蔑みに満ちた目で空良を()め据えた。 「きみは、義兄ふたりをたぶらかしてエッチ三昧に耽っているそうだな。大したタマだ」 「たぶらかす、だあ? 俺にオイシイとこをかっさらわれて八つ当たりか、サイテーだな」    肩を摑まれて躰を揺さぶられ、ずるりといきそうになるのを辛くも踏みとどまりながら、 「幽霊と遭遇しそこねて残念だったな」  にこやかに皮肉って返す。大和が顔を引きつらせて飛びのくと、自己嫌悪に陥った。  かたや空良は顎に人差し指をあてがって天井を仰ぐ。 「エッチ三昧って、あれのことかなあ? 兄弟で力を合わせて、お義父さんの発明品のモニターをがんばってること?」 「綺麗事をほざくな。今後は高校生らしく節度を守るよう、せいぜい自重したまえ」 「そっちこそ執行部の連中をちゃんと管理しとけ。行くぞ、たこ焼きをおごってやる」    大和にぐいぐいと引っぱられていきざま、空良は小さく手を振ってよこした。  やましさの欠けらもない仕種が、己の浅ましさを浮き彫りにするようだ。当麻は崩れ落ちるように階段に腰かけた。  日ごろ、その姿勢はだらしないと忌み嫌っているにもかかわらず、背中を丸めて両手に顔を埋める。  八つ当たりしたなどと、認めたくないが認めざるをえない。小沢大和および、その兄に嫉妬したあげく、空良に矛先を向けるとはザマアナイ。

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