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第7章 おにいちゃんズの迷走

    第7章 おにいちゃんズの迷走  庭先にそびえる椰子の木が、夜風と戯れる。武流の部屋の窓ガラスに銀色の筋を()く月の光さえ、泣き腫らした目には、真夏の直射日光さながらギラギラと突き刺さる。  時計塔の一件があって以来、空良はずっとずっと考えに考えて結論に達した。  当麻から軽蔑されたうえに嫌われた、らしい。当麻の観点に立つと、おにいちゃんズといかがわしい行為に耽っていることが原因、らしい。  自宅から歩いてすぐそこの浜辺は、海水浴のメッカだという。母親の再婚話が本決まりになったさい、空良は大喜びした。  家族が増えて、おまけに小沢父はボロい家だと謙遜したが、実際には海辺の街にどんぴしゃの南欧風の家に引っ越すなんて最高!  夏じゅう泳ぎにいくのを楽しみにしていたのに、梅雨の間に涙の海で溺れてしまいそうだ。 「〝ラブリーにゃんこ4号〟の性能を確かめるのは嫌だって? どうして、そんな我がままを 言うのかな」  武流が眼鏡を押しあげた。の収まり具合を微調整する様子に、苛立ちが現れていた。あまつさえ優しい弧を描く口許に反して、双眸が不気味に光る。  武流の胸中を言語化すると、ざっとこんな感じだ。  素直な点だけが取り柄の空良が、熱烈教育中のペットが拒否るとは、冗談じゃない。  もこもこしたものが、ローテーブルの上で出番を待ち受けている。さらなる内壁へのフィット感をめざして改良がほどこされた尻尾つきローター・ラブリーにゃんこ4号。キュートな桃尻と、絶妙のコラボレーションを演じるであろう逸品だ。  悪だくみを秘めた指が、もこもこを()く。今を去ること数ヶ月前、空良と自己紹介し合った時点で、おにいちゃんズはえげつない青写真を描いた。  初心者向けの性具を用いて免疫をつけさせるのと並行して、ちっちゃな孔を拡張していき、ここ一番のタイミングで初物をいただく。  題して〝バックヴァージン卒業計画〟は、これまでのところ順調に進んできた。その計画に支障をきたすなど、武流にとっては青天の霹靂(へきれき)そのものだ。

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