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第79話
もこもこで喉をくすぐられて、空良は膝をにじらせて後ろにずれた。
この部屋の西側の壁は、まるまる造りつけの書棚だ。戸口寄りのひと隅に、ちんまりと座りなおす。そして、きっぱりと宣言した。
「おお兄ちゃん、ちい兄ちゃんも。しごきっこも、ぺろぺろ舐めるのもひっくるめてモニターは、もうしません」
だって兄弟の絆を強めると謳うスキンシップは、武流曰く「一般的なもの」どころか顰蹙を買うものだと、知ったのだ。
嘲罵が耳に、絶対零度の眼差しが頭に、どちらもこびりついて離れない。逆鱗に触れてしまって二度と当麻から親しげに話しかけてもらえないのだ。
そう思うと、初めて味わう類いの切なさで心が軋めく。涸れ果てたはずの涙が、またにじむ。
空良の心には、ぽっかりと穴があいた。それは当麻の笑顔以外のものでは金輪際、埋まりっこない空洞だ。
猫じゃらしのごとく眼前でひらつかされる、もふもふを力一杯はたき落とした。
「ごねて、シラけるなあ。大和、空良がへそを曲げた理由に心当たりはあるかい」
「知らね、単にノリが悪いってだけだろ」
そう、ぶっきらぼうに答える大和自身、今夜はテンションが低い。本来ならば、さくさく空良を押し倒すわ、嬉々としてラブリーにゃんこ4号を蕾にこじ入れるわと、やりたい放題に振る舞うところだ。
ところが、だらりと壁にもたれて、胡坐 をかいて、一本指でバスケットボールを回す。
「とにかく、もうしないったら、しない!」
空良は、おにいちゃんズを交互に睨んだ(と、いっても仔猫がふぅふぅ唸っているようなもので逆に可愛いが)。すかさずバスケットボールが飛んできて、耳をかすめて書棚に命中した。
「おまえなあ、ちっこい脳みそを働かせてちゃんと考えたのか。俺らとエッチいことするのが急に嫌になった理由 を!」
「考えた、ってば!」
膝立ちになって力説した。怒っているというより、やるせなげにゆがんだ顔めがけてバスケットボールを投げ返す。
そして弾き飛ばされた本を拾いあげて、三角に折れた表紙をできるだけ均 した。いちど折り癖がついたページでも丁寧に皺を伸ばせば痕が目立たなくなるように、当麻との関係を修復する方法はある、と信じたい。
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