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第81話

 国道に出た。トラックが猛スピードで行き交い、風圧でTシャツがはためくなか、防潮堤に飛び乗る。月の道が海面に延びて、水平線の彼方まで歩いていけそうだ。  気象衛星が白銀の尾を引いて軌道を行く。そのさまを防波堤に腰かけて眺め、貝殻混じりの砂を足の裏でこそげる。海を歌った童謡を口ずさんでいると突然、背後からヘッドロックをかけられた。 「ひったくりさんだったら、おれ、一文無しです!」 「だぁれが、ひったくりだって。どアホ!」  そう、耳許でがなりたてながらツムジを拳でぐりぐりしてくる。やっとのことで首をねじ曲げて、わざとこしらえたような渋面(じゅうめん)を見いだした。 「ちい兄ちゃん……追っかけてきたの?」 「ひとりでうろついて危ないだろうが」 「散歩なの、ついてこないで」  遮二無二ヘッドロックを外すなり、浜辺に飛び降りた。  勢いあまって尻餅をついた空良にひきかえ、大和は足をそろえて綺麗な着地を決める。その後も、サンダルが砂にめり込んでよろけがちになる空良に対して、大和はスニーカーでざくざくと砂をまき散らして歩く。  海岸線は馬蹄型に切れ込み、その中心から数十メートル沖合に小島が浮かぶ。小島の突端にぽっかりと口をあける洞窟には海神(わたつみ)が祀られていて、そこは知る人ぞ知るパワースポットだ。  ふたりは、いつしか陸地と小島を結ぶ橋のたもとをうろうろしていた。 「モニターをやめたいって、いけないことなの? 兄弟でいるための絶対条件なの?」  そう真顔で訊かれて大和は口ごもった。おまえは俺たち兄弟の共有のオモチャで、人並外れてウブいのにつけ込んで弄んできた。  などと武流との紳士協定を破ってぶちまけたら、真夜中に最恐のホラー映画を見せられるのは必至。  それ以前に空良の信頼を失ったうえに嫌われるくらいなら怨霊に祟り殺されるほうがマシだ、と思う。 「タケ兄は、けっこう陰険だ。マジに嫌がらせとかされたときは相談しろ」

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