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第82話

   武流と結託して空良にエロ技を仕込むより、こうして一緒にぶらぶらしたり、ときおり偶然を装って髪を撫でたりするほうが楽しい。キモいわぁ、と吐き気をもよおした(てい)で顔をしかめても実際、革命的なまでに心境が変化したのだから抗いようがない。  ひょいと横にずれて、かなりの幅に(わた)って岸を削りにきた波をかわすと、 「さすがのフットワークだね、カッコいい」  爛漫の笑顔を向けられて耳たぶが熱を持つ。  (みぎわ)ぎりぎりの線に沿って行ったり来たりしながら、打ち寄せてくる波をジャンプしてよけるゲームが暗黙のうちに始まった。ルールは単純、足が濡れたらアウトだ。    ふた組の足跡がうねうねと波打ち際に刻まれていた折も折、当麻は後悔という名の波間をたゆたいつづけているような思いを味わっていた。  勉強机に向かって英文を訳す、あるいは数式を解く間中、眼前に置いてあるスタンドミラーが学習意欲を高めてくれる。それが十年来の勉学スタイルだ。  ところが憂わしさと怜悧さをない交ぜに麗しい顔が、視界をちらつくさまが鬱陶しく感じられて、ついにはスタンドミラーを伏せるありさま。それは、大食漢が断食するにも等しい事態だ。  枝毛ができてもかまうものか、と髪の毛を搔きむしる。特別教室が並ぶ一郭で小沢空良とばったり会ったさいに、つい知らんぷりをして通りすぎた。冷淡な態度をとったことが、返す返すも悔やまれる。  毎度のことながら、大和が金魚のフンのごとくひっついているのに神経を逆なでされた。やせ我慢……もとい、くだらない意地を張った原因は、それだ。  結果的に空良を傷つけて──草むらで震えている仔ウサギのような風情が萌えツボだったのはさておいて──心に棘が刺さった。しかるべく謝罪しないことには、精神衛生上悪い。 「そうだ、調べよう」  空良のLINEのIDを。義兄たちの欲望の捌け口にされる、という不幸な境遇にある下級生のセーフティネットになってあげるのも、広義に解釈すれば生徒会長の責務に違いない。  ひいては、いつでも連絡を取り合える環境を整えておく必要がある。  他意はない、罪滅ぼし以上の深い意味はない、誓って、ないが。二倍増しに親密な関係を築くのも、だろう。

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