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第83話
人脈を駆使して即座にIDをゲットした。当麻がことさら堅苦しいメッセージにスタンプを添付するか否かで悩んでいたころ、のちほど初LINEに胸をときめかせることになる当の本人は、といえば。
浜辺を激走していた。波よけ競争で負けた罰ゲームは、制限時間十分でジュースを買ってくること。ただし一番近い自動販売機ですら片道六分の距離にあり、大わらわだ。大和イコール、ゴールに駆け込んだ直後にスマートフォンのアラームが鳴って、
「クソ、セーフかよ。せっかく楽しいペナルティを考えてたのが無駄じゃねぇか」
そう、舌打ち交じりに缶を受け取ってプルタブを引けば、コーラが噴き出して仏頂面が茶色い泡まみれになる。そして躰をふたつに折ってハァハァとあえいでいる空良へのお駄賃は、デコピンだ。
「炭酸の缶を振るとか、サンキューな」
流木に並んで座った。熱っぽい視線がこめかみに突き刺さり、空良は小首をかしげ気味に大和を見つめ返した。すると、もう一発デコピンをみまってきて、それでいてミルクティのプルタブを引いてくれる。
ただ、筋肉の稜線が走る腕が腕に押しつけられて、缶を口元に持っていきづらい。横にずれると、そのぶん間隔を詰めてこられて、なおもお尻をずらすと、生け捕りにするふうに肩を抱き寄せられた。
あれは、イカ釣り漁船のものだろうか。小島の向こうで漁火 が揺らめき、無数の蛍が飛び交っているような幻想美を描き出す。
夜の渚にふたりきり。恋愛映画の一場面さながらのシチュエーションだが、空良には大切な要素が欠けているように思えた。
試しに、空想の中で大和を当麻にすげ替えてみる。とたんに胸がきゅんきゅんして、流木のささくれをムキになってむしってしまう。
パシり終えたとき以上に顔が火照り、手で扇ぎながら言葉を紡いだ。
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