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第85話
海藻が磯だまりでもつれ合い、各人各様の思惑が入り乱れるさまを象徴する。月夜のひとコマは、恋模様がややこしさを増す、その序章だった。
ちなみにゴム製の蛇を見つけたときの空良の反応は、こうだ。
「リアルでカッコいい。おお兄ちゃん、サプライズプレゼントだね、ありがとう!」
「気に入ってくれて、よりすぐった甲斐があるよ。そうか、爬虫類は平気なのか……」
などと、虚ろな笑い声が夜の底に溶けてから十数時間後の昼休み。空良は半泣きでメッセージを綴っていた。
そのLINEは誰に宛てたもの? と訊くまでもない。むろん当麻へ、だ。
〝ごめんなさい、クラス劇の準備があって屋上へ行けません〟。
時計塔事件が起こった日、ハリボテ作りを手伝う約束をしていた。不可抗力とはいえ、すっぽかした埋め合わせに昼休みをつぶす羽目になったのだ。
設定によると、カボチャ型のUFOは魔法使いならぬ異星人がカボチャのDNAを操作してこしらえたもので、チンデレラがパーティー会場に乗り込む場面で登場する。
空良は、教室の隅にぺたりと座って糊の缶に刷毛を浸した。そしてカボチャ型に編んだ竹ひごと厚紙から成る土台に糊を塗っていく。
この上にアルミホイルをまんべんなく貼りつけて、さらに金色の房飾りをつけたら完成だ。ただし直径が一メートルもある代物で、ふうふう言いながらの作業だ。
ムラができないよう寄り目になって塗り進め、それでいて、ひと刷毛ごとにため息がこぼれる。
当麻から突発的LINE! 屋上で待ち合わせ! てっきり嫌われたに違いないと思い込んでいたぶんも嬉しくて、百億光年の彼方まで翔 ていけそうな気がした。
だって、わざわざIDを調べたうえでLINEをくれたということは、ささやかでも先輩の心の中に、おれの居場所を作ってくれたということでしょう?
ところが、まさしく天国から地獄へ真っ逆さまだ。刷毛を缶から引きあげて、糊が垂れる様子を切なく眺める。
本当なら今ごろ屋上で当麻と向かい合って座っていた。のりはのりでも海苔でくるんだバクダンおにぎりを振る舞っていた。
それに、おにいちゃんズとは未来永劫、清く正しい関係を保っていくと宣言すれば、少しは見直してくれたかもしれないのに──はぁ……。
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