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第94話

 そこで蒼ざめた。なんということだ、小鼻の横にニキビができている。  肌トラブルの原因は絶対! に受験勉強および生徒会長の責務によるストレスだ。  恋を家造りに(たと)えるならば基礎工事にあたる〝告る〟に挑んでステップアップを図らなければ、などと色ボケたことを夢想するせいではない。  第一、無敵王子たる者がフラれることがあれば、そのダメージは計り知れない。人生初の挫折感に打ちのめされて、登校拒否に陥ったあげく人生の敗残者となり果ててしまうかもしれない。  脳内のリピート機能が働いて、先ほどのひと幕が瞼に浮かぶ。  すべらかな肌にインクをひと垂らししたように、ふき残しの鼻血がぽつりと赤いのが煽情的だった。唇はジェリーのように適度な弾力があって、ついばんだ瞬間、心の中で何万発もの花火が上がった。  ただ、惜しむらくは。  どうせ危ない橋を渡るなら、思い切って舌を入れてみればよかった。 「おわっ!」  当麻は飛びすさり、からくも塔屋の(ふち)に踏みとどまった。そして恐る恐る視線を下げていくと、ひとしずくの汗がこめかみを伝う。  スラックスの中心が、丸みを帯びている。より正確に言うと、半勃ちになっている。  高校生男子あるあるだ、と強いて苦笑いを浮かべた。  大いに勃ち、大いに射精()す。それは健康な証拠だ。  ただし劣情をそそられた要因が、いささか問題だ。  次回は堂々と小沢空良にくちづけてみせる、と誓いを立てると同時に股間に異変が起きたあたり、どれほど屁理屈をこねようが恋心はバッチリ熟成中だ。

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