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第99話

 さらに武流は秘密めかして声をひそめた。 「このさい大和に成り代わって懺悔するよ。父さんの発明品をモニターしてもらうのにかこつけて空良を嬲ってやろう、とノリノリで提案したのは……」  思わせぶりに口をつぐみ、ファンファーレを奏でるように腕をひと振りしてから続ける。 「大和なんだ。えげつないやり方で空良をいびるのを黙認するとは、監督不行き届きもいいところだね」  嬲る、と空良は鸚鵡返(おうむがえ)しに呟いた。語彙に含まれていないこともないが、おにいちゃんズと致したあれやこれやの行為とは、まったく別の種類のものだろう。  よって、にっこり笑った。 「ちい兄ちゃんは人生勉強のカリキュラムを組んでくれたんでしょ」  栗色の髪に天使の輪が浮かび、カットソーのセーラーカラーは純白の翼に変貌したかのようで、邪悪な空気が空気が一掃された。  庭先でクチナシが咲き匂い、雀が朗らかに鳴き交わす。 「おまえは天然っつっても国宝級な。マジに尊敬するわ」    大和が頭をがしがしと搔けば、武流はむっつりと押し黙って眼鏡のレンズを磨く。 「洗濯機を回してる間に仕度するね。急がなくっちゃ、ファイトォ!」  かくして純潔は保たれた。他方、まんまといなされた形の武流と、おあずけを食わされたムスコには不満がくすぶる。その夜、大和は垣間見た魅惑のゾーンをオカズに改めてひとりエッチに励んだものの、完勃ちするには至らなかったのはムスコが拗ねたからといえよう。    それはさておき、お昼前。小沢ブラザーズが学校に到着するのと相前後して、当麻も校門へとつづく坂道をのぼりつめた。夏至祭をもって退陣するからには、万、遺漏なきを期したうえで当日を迎えたい。  タイムスケジュールの確認にはじまり、来訪者──父兄やOBに配布するプログラムに印刷ミスがないかなど、やることは山積みだ。  というのは表向きの理由だ。二年四組が講堂の使用を求め、それに許可を与えた。こちらが本命だ。

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