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第103話

 今しも唇が甘やかに疼き、どちらのキスに軍配を上げたいかなんて決まりきっている。  それでも戦火をかいくぐって伝令に走る兵士さながらの使命感に燃えて、ふたりの手を取ると、結婚式を執り行う神父のように結び合わせた。 「先輩たちを応援するし、祝福するね」  そう宣言するそばから唇がわななき、心が軋めくが。 「空良くん、きみは根本から間違っている。俺と小沢大和が恋仲など誤解も(はなはだ)だしい。敵愾心(てきがいしん)を燃やして、うっかり間接キスをやらかしたのは痛恨の極みだ」    当麻が振りほどいた手をハンカチでぬぐうと、 「あのなぁ、こいつと俺は犬猿の仲ってやつ、大嫌い同士。メルヘン入ってくっつけんな、マジにキモいし」  大和がぺっぺっと唾を吐く真似をして、 「照れなくてもいいのに。ふたりは、お似合いだと思うよ?」  空良が強がりが透けて見える笑顔をこしらえたせつな、三人のスマートフォンが一斉に通知音を響かせた。 「ヤベぇ、全体練習に遅刻じゃねぇか、袋叩きにされんぞ」 「悪魔マークのスタンプってことは、みんなすごく怒ってる?」 「俺も生徒会のほうでトラブル発生だ」    よりによって話がもつれている状態で時間をおけば、ますますこんがらかるのは必至だが、やむをえない。小沢ブラザーズは講堂へ、当麻は生徒会室がある西校舎へと急いだ。  通し稽古に励んでいる間中、空良は〝先輩とちい兄ちゃんが〟という毒キノコに(あた)ったように、おなかがしくしくしする感じに悩まされどおしだった。  いきおい当麻から、 〝声を大にして言う。俺が好きなのは……ヒントその一、二年四組の生徒だ。ヒントその二、案外そそっかしい子だ〟。  謎かけと奥ゆかしさの合わせ技のような、こういう内容のLINEがきても既読スルーを決め込む始末。だって、ちい兄ちゃんを差しおいてやりとりするのは越権行為かもでしょ? そんな余計な気を回して。

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