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第104話

 天然ならではの発想に基づいてそうしたわけだが、当麻の観点に立てば悶々とする羽目に陥り、だからといってナルシシズムが(あだ)となって、ヒント三を追加したメッセージを送るのはプライドが許さない。  鬱蒼とした森に分け入り、勘を頼りに進んでいけば、帰巣本能が優れていても方向を見失うように。  美術部の渾身の作、卵の殻のモザイクアートで〝夏至祭〟とあしらったアーチが完成にこぎ着けた。多数の生徒が最終下校時間まで居残り、校内に設置された自動販売機は軒並み品薄になる。  日増しにお祭り気分が高まっていくなかで、大和は天国と地獄を行ったり来たりしていた。ちゃっかりキスをせしめた、あれが天国だ。  我ながらグッジョブとにんまりするにとどまらず、目下、ぶっちぎりでオカズランキングの一位に輝く。  地獄のほうは、当麻という伏兵が現れたことだ。もだもだっぷりから察して、ふたりは両片思いっぽい。ただ、幸いなことに空良はおツムの中身が少々だから、うまく誘導すればふたりの仲が壊滅的にこじれるよう持っていくのは可能だと、ほくそ笑む。  その大和自身、ライバル意識と独占欲をない交ぜに唇をかっさらって以来、空良に迂闊に触れると汗が噴き出すわ、どもるわ。  それが恋情のなせる技だと気づかないあたり、かなりのポンコツだった。    余談だが、武流は性懲りもなく策を弄した。空良が風呂あがりに必ずカルピスを飲む点に着目し、原液に催淫剤をひと垂らし、ふた垂らし。  おお兄ちゃん躰がムズムズするよぉ、と泣きついてきたところでお医者さんごっこに雪崩れ込み、美味しくいただく寸法だ。  併せてイチ抜けたをした大和は、ぐるぐる巻きにしたうえで床に転がしておく。花を散らす瞬間を指を咥えて眺めているがいい、うわっはっは。  一種の時限爆弾が炸裂するまぎわ、小沢父が誤ってカルピスの瓶を落とした。目論見は原液とともに流れ出し、台所は甘い香りに包まれた。

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