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第106話

 昼の休憩に入り、空良は大和とつれだって講堂を出た。戸口のそばで当麻とニアミスし、ところが挨拶する、しない以前に舌がもつれて何も言えずじまい。  それでいて大和のぶんもこしらえてきたガパオライスをぱくつくさいには、すらすらと言葉がすべり出す。 「どのクラスもレベルが高くて見応えあるね」 「所詮コンパ芸のノリな……うめぇな、この肉そぼろ」 「うん、市販のスパイスミックスを使うと、お店屋さんの味になって便利なの」 「インスタントかよ、褒めて損した。けど、おまえ料理得意な。飯の上にのっかってるスクラ ンブルエッグの半熟加減、絶品だし?」 「本当はね、ガパオライスには目玉焼きが定番なんだけどね、卵を割るのに失敗したから混ぜちゃった」    などと温度差がすごいやりとりを耳にして、クラスメイトが囁き交わす。  なんとかしてイチャつきモードに持っていきたい大和がいなされつづける図、空良くんは猛獣づかいの素質あり──と。  それはさておき腹ごしらえをすませたところで、工作教室の始まり、始まりぃ。  はじめに全紙大の段ボールを二枚用意する。そして演目名は〝チンデレラの憂鬱〟、上映時間は××、と太字で大きく書く。  さらにマスキングテープで派手に縁取ったうえで、上辺の左右の角にそれぞれ穴をあけて、そこに紐を通して段ボール同士をつなぎ合わせたものを頭からかぶって躰の前後に垂らす。  これで〝宣伝部長〟の完成だ。  プログラムを編成するにあたって、二年四組がくじ引きで引き当てた枠は日曜日の午後イチ。ちょうど同じ時間に音楽堂のほうで、セミプロ級のバンドメンバーを(よう)するクラスがライブを行うとのことで、食われる恐れがある。  優勝を狙っていくからには、前評判を高めておかなきゃ、というわけで〝宣伝部長〟を装着した空良を中心に校内を練り歩いて、集客に結びつける作戦だ。  出陣の準備を整えるのに欠かせないものが、 「空良くん、これをかぶってくれる?」  衣装係の細田が、ツインテールに結ったカツラを(うやうや)しく捧げ持つ。  ちょうちょ結びのリボンがこめかみの両脇で揺れるそれは、幅広い分野のオタクをひざまずかせる必殺のアイテムだ。 「空良くん、リップグロスも塗ってみようか」  同じく相原がハァハァと、ふっくらした唇を桜色に彩ったとたん、ハート型のため息が教室に充満した。

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