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第107話

「キモ、チンドン屋かよ、キモ」  おえっ、と顔をしかめた大和が真っ先に空良をスマートフォンで接写、激写する。  天邪鬼ぶりが、むしろ憐れみを誘う彼を含めた出演者陣が、 「ラブシーンありの劇をやります、よろしくお願いしまぁす」  行く先々でビラを配って回ると、そこかしこでどよめきが起きた。  読モ級の美少女がうちの制服を着て混ざっていないか? あの子は二─四の切り札で本番では美脚を拝めるらしい、じゃあ絶対観にいくべ──等々。  空良が握手を求められるたびに、寄るなさわるなとオラつく大和を総がかりでなだめる苦労はあったが、宣伝効果はばっちりだ。〝チンデレラの憂鬱〟が十分浸透したのをしおに解散した。 「カツラって暑いね、頭が蒸れちゃった」 「慣れろ……せっかく似合ってるんだし」  哀しいかな、決死の覚悟で放った〝似合っている〟は時ならぬ喚声にかき消された。ともあれカツラと〝宣伝部長〟を教室へ返しに行く途中、東校舎と西校舎をつなぐ渡り廊下の真ん中で武流と行き合った。 「おお兄ちゃん、来てたんだ。おれたちの出番はあしただよ?」  ねえ? と大和に相槌を求めると、 「講堂と音楽堂以外は立ち入り禁止。OBヅラして、うろついてんじゃねぇよ」    しっしっと追い払う仕種で応じる。 「中等部、高等部を通じて六年間をすごした学び舎がなつかしくてね。アオハルの思い出に浸りながら、ぶらぶらしていたんだ」 「おれも一年のときに通ってた高校に行く機会があったら探検しまくるかも」    にこにこと話を引き取る空良にひきかえ、大和の顔つきは不審者に対する警察官のように険しさを増す。  タケ兄がノスタルジーに耽る? そんな繊細なキャラかよ、眉唾くさい。 「俺ら、いろいろ忙しいから行くわ」  大和は言い捨てるが早いか、空良の腕を摑んで回れ右をした。そこに当麻を先頭に、生徒会執行部一行が通りかかった。 「やあ、宣伝活動かい? がんばってるね」 「せっ、先輩たちこそ、みま、見回りですか。おつー、でございます」 「あのさ、うちの兄貴がふらふらしてんだけどさ。セキュリティに問題ありじゃね? 生徒会権限でつまみ出してくんねぇかな」

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