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第108話

 などと親しげに言葉を交わすわりには、微妙に気まずい空気が三人の間を漂う。  武流は直感した。明らかに空良を巡って三角関係のいっちょあがりだ、と。  我が弟ながら大和はぶきっちょで、殊に初恋の女の子への接し方といったら、優しくするどころかイジメ抜いたすえに退園を勧告された──武流が入れ知恵したせいでもあるが──幼稚園時代にはじまって進歩がない。  以上を踏まえて、無敵王子と冠される生徒会長のほうが()がいい。  眼鏡が似合う知的な風貌に、腹に一物ありげな要素が加わる。実際、武流はおいしいネタを求めて母校を訪れたのであった。  そう、生意気盛りの弟たちの根性を叩き直して、性奴イコール、空良とウハウハの桃色天国を再興するのに役立つものを。  うってつけのものがカモネギ式に転がり込んできたからには、さっそく活用しない手はない。武流は渡り廊下の端っこまで大和を引きずっていくと、打撃コーチがスランプ中の強打者に助言を与える(てい)で囁いた。 「がんがんアピールしないと、鈍チンには永久に伝わらないよ」 「……なぞなぞかよ、はっきり言え」  大和はぎくりとした。それを悟られまいとして床を踏み鳴らすと、武流は立ち去るそぶりを見せる。ケチりやがって、と舌打ちした時点で大和は術中に陥っていた。 「弟の幸せを願って秘策を授けてあげようね。耳をお貸し……」  おお兄ちゃんがひそひそと何か言うたびに、ちい兄ちゃんは頭を抱えてうずくまったりして変なの。空良は無理やり意識をそちらへ向けながら、ツインテールをねじりまくった。  当麻とまともに向き合うのは、例の〝間接キス〟に、分類するのが難しい衝撃を受けて以来だ。もやもやしたものが増殖する一方の現在(いま)は、いきおい笑顔が凍りつきがちになる。

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