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第112話

 彼らが思い描いていたのは、ゆるふわ巻き毛で色白の美少女が、隠れ巨乳と美脚を際立たせる衣装をまとって現れる──要するに煩悩まみれのドリームだ。  ところが、詐欺だ。あの、筋肉ムキムキに見せかけるふざけた衣装は、ウェットスーツにウレタンで内張りをほどこしたものか? 男子校生の夢をぶち壊しやがって、金返せ泥棒、である。  あからさまなブーイングの代わりに、恨みのこもった波動が舞台めがけて押し寄せる。  その点、悪意遮断装置が搭載されているような空良はへっちゃらだ。それに本番に強いタイプだ。  出番がくる直前までは右手と右足が同時に出るありさまだったのとは打って変わって、ボディビルダーの決めポーズを参考にした身ごなしで舞台の中央へと進む。  スポットライトを浴びたとたん、チンデレラが憑依したのだ。  父親の後妻および、ふたりのつれ子はチンデレラをいたぶり放題にいたぶる。基本的な設定はシンデレラのそれを踏襲しているが、あちらの性格が健気なのに対して、こちらはしたたかな面がある。  小道具の(ほうき)でそのへんを掃きながら、最初の科白を言う。 「お義母さまも、お義兄さまたちも威張りくさってて。朝から晩まで『あれをしろ、これをやれ、グズグズするな、低能』……どタマ、かち割ったろうか」    ぼきっ! と箒をへし折って観客の度肝を抜いた。つかみはOKというふうに流れを引き戻したうえで、しなしなと横座りに崩れ落ちた。 「お義母さま方の夕食にトリカブトの粉末を混ぜたのは、こき使われている仕返しじゃない、お茶目な悪戯、悪戯なんだってば。消費期限切れのやつを選んで効いたらラッキー?   的な」    腹筋バッキバキ──ウェットスーツにいわゆるシックスパックをペンキで書いたもの──の野郎が主役の芝居なんか興味ねぇし。  椅子に沈み込んで、ふて寝の態勢に入っていた生徒たちが、一転して身を乗り出した。  生女子を拝みたい、あわよくばLINEのIDを交換したい。そんな男子校生のささやかな希望を打ち砕いてくれた見た目に反して、ひとつひとつの仕種が毛づくろいをするウサギっぽい可愛さにあふれていて、ギャップ萌えのツボを突いてくるよな?

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