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第113話

 おどろおどろしい曲が流れた。大和と宇野と橋本が演じる、継母プラス義兄その一、その二の意地悪トリオが上手から登場してチンデレラを取り囲む。  村の子どもたちが寄ってたかって亀をいじめる、浦島太郎の冒頭の場面を想像してもらうとわかりやすい。  ちなみに意地悪トリオの衣装は中世の騎士もどきのデザインだ。つまりデコラティブなチュニックのウエストを幅広のベルトで絞り、ぴっちりしたタイツを穿いて、マントを羽織るという、あれだ。  ダサいのが半回転して、イケているという幻惑を引き起こす恰好で口々に言う。 「俺さまは街に出かける、だけど足がない。よってチンデレラ、おまえが馬になれ」 「無茶ぶりですって? ごくつぶしの分際で生意気をお言いじゃないよっ」 「お馬さんパカパカ、早くしろぉ」    チンデレラがしぶしぶ四つん這いになると、義兄その一がさっそく背中に跨ってきて、尻に鞭を入れる。  ちい兄ちゃんったらノリノリ。空良はそう思い、調子を合わせて、棹立ちになった馬のように勢いよく上体を反らした。  大和が大げさに手足をばたつかせてすべり落ちる。きんきらきんのマントがはためき、派手に尻餅をつくさまに客席が沸いた。  脚本を担当した和田が、はらはらしながら身をひそめていた舞台の袖でガッツポーズをした。いざ蓋を開けてみれば空良のはっちゃけっぷりと、イケズな義兄を地でいく大和の好演ぶりが相乗効果をもたらして、第一場が予想以上にウケた。  この調子でいくと成功まちがいなしで、快作を世に送り出した自分が夏至祭のMVPに輝くなんて番狂わせが起きるかも?  運命の赤い糸で結ばれた人を探し出す手助けをしてほしい、とチンデレラが魔法使いを召喚する第二場。  儀式の手順が狂ったせいで、異星人が壊れたUFOの修理を頼みにくる第三場。  テンポよく物語は進み、要所、要所で笑い声が弾ける。

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