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第114話

「チンデレラ、肩を揉め、腰を揉め、足を揉め、ついでに✕✕も揉め」 「✕✕とは……あれでっか、あんさんもお好きでんなあ」  空良は殊更ねっとりと語尾を伸ばしながら、意地悪トリオの元へとにじり寄った。そこで思わせぶりな間を置く。  ✕✕とは大胆にも✕✕のことか、と観客をドキッとさせておいてチンアナゴのぬいぐるみをモフりたおし、 「こてこての演出で失礼しました!」  とどめにスケベったらしい手つきでもうひと撫でして客席のボルテージをあげた。  当麻は最後方の席から小さな拍手を送った。普段はおっとりしている空良がチンデレラになりきって活き活きと舞台を飛び回るさまに、理屈もへったくれもなしに魅せられる。  ほの暗さにまぎれて愛用のコンパクトミラーを開き、凛々しさが映える角度に傾けた。 以前は、 「ブラボォ、パーフェクトビューティー」  臆面もなくうそぶいて心ゆくまで鏡と語らうのが常だった。だが自己愛という沼にどっぷりとハマっていた呪いが解けたように、髭の剃り残しを発見しても、うろたえることはない。  それより苦いため息がこぼれる。義理とはいえ、さすがに兄弟。空良と大和のからみはとりわけ呼吸(いき)がぴったりで、大和を舞台から引きずり下ろしたい衝動に駆られるほど妬けるあたり、重症だ。    当麻がアイデンティティー──すなわちナルシシズムの残滓と恋情の狭間をたゆたっている間に、芝居のほうは第十場に入っていた。  超豪華なタワーマンションを会場に、日本一の御曹司の誕生日祝いを兼ねた花嫁選びのパーティーが開かれる旨が発表された(くだり)だ。  意地悪トリオはちゃっかり招待状をせしめて、エステだ、ネイルサロンだと、かまびすしい。  かたやチンデレラは相変わらず、いびられっぱなし。硫酸の池に落とした斧を拾ってこいと継母から命じられて、ぼこぼこと泡立つ池の(ほとり)で途方に暮れているところに七色の光が降りそそぐ。  ふたつのボウルを()ぎ合わせた球体がキャットウォークからジグザグに下りてきて、 「このあいだ我が輩のUFOを」  異星人役の飯島が胸を叩きながらしゃべるという古典的なやり方で、それらしく声を加工しながら球体へと顎をしゃくる。

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