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第115話
「燃費が向上するようチューンナップしてもらったお礼に願い事を叶えてあげ……」
空良は、最後まで聞き終えないうちに異星人──飯島に飛びかかった。頭の両脇から突き出しているアンテナをねじ切る勢いで握りしめて彼を揺さぶる。
「パーティーに行きたい!」
「ぐっ、ぐるじぃ、熱、熱量がすごい」
お膳立ては調った。いよいよ最初の山場、変身シーンに突入だ。
本家本元のシンデレラの場合は魔法の力で、みすぼらしい普段着が絢爛豪華なドレスへと変貌を遂げる。こなた飯島が異星人印のスティックをひと振りすると、あ~ら不思議。
客席に陣取った野郎ども、聖なる乙女がもうすぐお目見えするぞ、目玉をひんむいて涎 を垂らして、しばしの我慢だ。
それからアンケート用紙の〝いちばん面白かった演目〟の欄には、チンデレラの憂鬱と記入の程よろしく。
ドラムロールが鳴り渡り、連鎖的に手拍子も湧き起こる。空良は素早く袖に引っ込んで、ウェットスーツを脱ぎ捨てた。
「空良くん、最高だよ。後半もアゲアゲでいこう、その前に」
衣装係の細田が、ツインテールのカツラをかぶせる。ドサクサにまぎれて地毛をさわさわしまくったのは、役得というやつだ。
「リ、リップグロスも塗りなおそうか」
同じく相原が馬鹿丁寧な指づかいで、ふっくらした唇を彩る。
傘を開く要領でスカートを膨らませると、さしずめ立って歩いて笑って話す等身大の美少女フィギュアに命が吹き込まれた図、だ。
ペチコートを幾層にも重ねたスカートの丈は膝上十五センチ。アイドルグループのステージ衣装もかくや、という代物だ。
欠かすことができないものは、もちろんニーソックス。絶対領域もまばゆい美脚が、いっそう華やぐ。
スモークが焚かれたところに照明がぐるぐると円を描き、光の矢が再び登場した空良の姿を捉えた。
その光景は、まさしく天女降臨。萌え萌えきゅんきゅんのポーズも愛らしく、空良がスカートを翻して一回転すると、場内が静まり返った。
ハズしたか、ドンビキか。出演者陣も、裏方に回った生徒も、ついでに担任の教師も、二年四組の構成要員は固唾を呑んでなりゆきを見守る。
平常心の空良と、頭の中で秒読みが始まりテンパってきた大和を除いて。
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