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第116話

 と、口笛、指笛、歓声、なんでもありで講堂が揺れた。  チンデレラ役のあいつマジに可愛いじゃん、上演中の撮影はNGだっけ? あとで握手会とかやらねぇかな──等々。  彼らが空良の公式ファンクラブを結成し、会報を発行するなどの活動に励んだ後日談は本編には関係ないので、割愛する。  当麻は、といえば。  キューピッドの矢で全身を蜂の巣にされたように感じて決意を固めた。恋心が熟した、芝居がハネしだい告ろう──と。  無敵王子に見初められるのは空良にとっても栄誉のはずで、フラれる恐れは微塵もない、と信じたい。ただし相手は、とてつもない天然だ。俺はきみに恋しているとストレートにぶつかっていかないかぎり、また斜め上をいく受け取り方をされて、あげくの果てに大和とくっつけられた日には悲劇だ──。 「恩返しならウインウインが常識、お・ね・が・い」    舞台の上では異星人がチンデレラのおねだり攻撃にたじたじとなって、カボチャをフェラーリに、ネズミを運転手へと変える。それから、 「手がかりを残して立ち去るのが、お約束。貴殿はガラスの靴の代わりに、これ」  貞操帯をつけるよう促し、さらに指きりゲンマンで念を押す。  午前零時の時報とともに魔法が解ける仕組みなのは永久不変の法則。だったら、どうしてガラスの靴は元に戻らなかったなんて野暮なことは言いっこなしよ、とにかく貞操帯を捨て置いてくるのを忘れないでね。    場面は変わって、劇中のハイライト。チンデレラと御曹司がパーティーの席上で一目惚れし合った。  大和は『キィ、くやしい』を怪演しつつも過呼吸の発作を起こす寸前だった。武流曰く〝秘策〟を実行に移す瞬間が刻一刻と迫る。口車にまんまと乗せられて勝負に出るときが。 「チンデレラ、きみと永遠(とわ)の契りを結ぼう」 「うれしい、愛の証しに上げ膳据え膳の毎日を保証してね」    きらびやかな夜景──ベニヤ板に描いた絵だ──をバックに空良と御曹司役の酒井が、熱っぽく見つめ合ってゆるゆると顔を寄せていく。  映画やドラマのキスシーンには慣れっこでも、同じ学校の生徒がナマで、とくれば話は別で客席がどよめいた。

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