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第118話

「ちょっと待ったぁ!」    生徒会長に就任して所信表明演説を行ったさいには全校生徒を魅了した。送辞を読めば卒業生のみならず、来賓の涙を誘った。  オペラ歌手ばりの美声が朗々と響き渡ったのにつづいて、空良の足下にひざまずいたさまをスポットライトが照らし出す。当麻は、しなやかな手を捧げ持った。  そして自分自身に愛を囁いて幾星霜を重ねるなかで〝神〟の域に達した熱い眼差しを、空良へと向けた。 「率直に言って、きみにメロメロだと認めるにやぶさかでない」 「てめぇ、割り込んでんじゃねぇ!」  大和が当麻の手をもぐように引きはがし、ねじ上げた。ラブシーンを盛りあげる甘美なBGMが、修羅場が勃発したのを受けて〝天国と地獄〟に変わった。    ここで周りの人々の反応をピックアップしてみよう。  役柄に合わせて紋付き袴で正装した俺の立場は。そう御曹司役の酒井がぼやき、いじいじと背景を蹴った。  俺の力作を滅茶苦茶にしやがって、と和田は台本を引き裂いた。  無敵王子ともあろう御方がごときを寵愛するようでは人類が滅亡する日も近い。などと嘆いて、副会長の中島以下執行部の面々が(くずお)れた。  この場に居合わせた幾人かの教師は、暗黙のうちに頬かむりを決め込む方向で合意に達した。    興味津々といった視線が舞台にそそがれる。シンデレラの法則に従ったクライマックスへと雪崩れ込む、という予想を裏切って怒濤の展開を見せる。  生徒会長まで飛び入り参加して、この先いったいどうなる!? 「猿真似野郎の出番はねぇよ。すっ込んでマスでもかいてろ」  大和がマントをはためかせてフェラーリ──と銘打った一輪車を蹴り払うと、 「人望を集める生徒会長と、凄む以外能のないきみとでは、どちらがお買い得かなど論を()たない。さあ空良くん、祝杯をあげさせてくれたまえ」    当麻は優雅な身のこなしで一礼する。

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