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第121話

「大変、グズグズしていたらおひとりさま一パック限りの卵が売り切れちゃう! 御曹司さま、ごきげんよう」    くるりくるりと下手(しもて)に捌けた拍子に、ツインテールが緞帳(どんちょう)に引っかかった。  リボンがほどけて、ふわりと棚引いたそれは、ガラスの靴が再会劇の鍵を握ったように当麻の掌に舞い落ちた。  かくして出演者陣は尻ぬぐいをする羽目に陥った。もっとも空良に対しては、おおむね同情的だ。  初心(うぶ)な子にいきなりモテ期到来じゃキャパ超えするのも無理はないよな、ホント、ホント。だいたいさあ、大和が大暴走をやらかしてくれたおかげで尻切れトンボに終わったんだし?    特典映像のノリで一応シメとくか、賛成、と意見がまとまったところで。 「タケ兄! 『告られたときのインパクトが強ければ強いほどカップル成立といく確率が高まる』って、撃沈じゃねえか。嘘こきやがって、チクショー!」  わめき散らす大和を取り囲んで、かごめかごめの替え歌風に〝海鵬学院の七不思議〟を語って聞かせた。接着剤を塗りたくられたように固まった大和にマントをかぶせておいて、横一列に並ぶと、客席に向かってヤケクソ気味に叫んだ。 「ブーイングしないでくれて、あざっした!」  なぜだか拍手喝采のうちに幕が下りた。途中から三角関係のすったもんだが挿入される形になったことで、観客は二本立ての芝居を観て得したような、あるいは歴史の生き証人となったような、不思議な感動を覚えていた。  当麻は講堂を飛び出した。空良は校舎へ向かった、と見当をつけてのことだ。  そちらの方向を眺めやると、案の定、()間隠(まがく)れにツインテールが駿馬のたてがみのように揺れる。しかも、あっという間に遠ざかる。  世話が焼ける子だ。微苦笑に口許をほころばせると、全速力で後を追った。

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