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第10章 生徒会長とラブ・フォーエバー

       第10章 生徒会長とラブ・フォーエバー  空良は校舎に駆け込むのももどかしく、衣装とワンセットの窮屈な靴を蹴り脱いだ。裸足で廊下をペタペタと歩きながら頭がむず痒い、と思う。  なのにカツラをむしり取っても、すっきりしない。役にのめり込んだ余韻がくすぶっているせいで、ふらつく。それ以前に世界が四十五度傾いている気がして、足がもつれた。  レースの洪水に埋もれる風に、へたり込む。強火の遠火で焼かれているように全身が火照りはじめて、とりわけ顔が熱い。  告白された、メロメロだって言われた、告白された、メロメロだって言われた!   狐につままれたような思いで右の頬をつねってみると、ちゃんと痛い。念のために左の頬をつねってみると、ひりひりする。  ということは舞台ジャック的な告白劇は現実の出来事で、逆にありえなさすぎて、おとぎ話の一場面に思える。  ともあれ二年四組の教室めざして這い進む。制服に着替えて、化粧を落として、それから……当麻に会いにいってふたりの今後について話し合う? 「心臓が破裂して、ぽっくり逝くかも……」  だから実行に移す前に遺書をしたためておいたほうがいいかもしれない。  お母さん、お義父さんと仲よく長生きしてね。おお兄ちゃん、溺愛してくれてありがとう。ちい兄ちゃんには……気持ちの整理がつかないからパス。  夏至祭の真っ最中とあって、大方の生徒は講堂および音楽堂で歌ったり踊ったり演じたり、それらを鑑賞したりしている。  レースが廊下を掃く音は、静けさを強調するように忍びやかだ。なので硬質な足音は、がらんとした校舎にけたたましく響き渡った。  通行の邪魔になるから、と空良は這って廊下の隅にずれた。と同時に、巨大なプレス機で押しつぶされるような圧を感じて振り向く。  そして目を(みは)った。当麻が、すさまじい形相で駆け寄ってくる。  咄嗟に、ぴょんと立ちあがって駆けだした。 「なぜ逃げる!」 「追っかけてくるから条件反射で!」  ごめんなさい、と呟きつつもカツラを投げ捨てて加速する。ざっくり言えば、人食いザメと遭遇したのと原理は同じだ。

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