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第125話

 トロいだの、激ニブだの、と大和がけなすわけだ。空良はそう思い、自分で自分の頭をコツンと叩いた。  返す手で頭を撫でた。叩いた衝撃で「当麻先輩が好き」がこぼれ落ちたら大変だ。  大人になってからハシカにかかると重症化する例が多いように、自覚症状が現れたとたん、遅咲きの初恋は一気に熱愛レベルへと達する。今の今まで恋という類い稀に美しい花が、蕾の段階で休眠状態にあったのが不思議なほどに。  窓越しに、丘陵地帯の(ふもと)に広がる港を眺めやると、豪華客船が停泊している。空良も錨に相当するもので当麻につなぎとめてもらったほうが、何かと安心かもしれない。  そう、間違ってもおにいちゃんズという高波にさらわれることがないように。賢い当麻は恋愛の教科全般にわたっても知識が豊富なはずだが、 「宇治産の茶葉を使っている。本格派だな」  ペットボトルのフィルムを剝がして成分表を()めつ(すが)めつするのに忙しい。かと思えば、ほんのりと赤らんだ耳たぶをムキになってこする。  両思いになりたてほやほやの状況に先輩も照れているっぽい、と空良はうれしくなった。すべらかな眉間に無理やり皺を寄せながら考えているうちに、名案が浮かんだ。  はいっ、と元気よく右手を挙げて質問を放つ。 「先輩は童貞ですか」  当麻は緑茶にむせた。世界史の試験問題に物理のそれがまぎれ込んでいたように戸惑いを覚えつつ、にこにこ顔をまじまじと見つめ返す。  ごまかすべきか、いや、この子の前では正直でありたい。ややあって、努めて淡々と答えた。 「いかにも童貞だが、全国平均と較べても筆おろしをすませるのが遅いとはいえない」  と、いうよりナスシスト道を究めていれば、極端な話、自分のペニスで型を取ったディルドゥを用いて、ひとりエッチの極意を会得していたかもしれない。

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