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第127話

 純愛カップルの初夜さながらの、少々よそよそしさを秘めたラブラブな雰囲気が生徒会室に漂う。  そのころ哀れにもハッシュタグ・フラれ男になり果てた大和は、といえば。それは涙雨だろうか、狐の嫁入りにコンクリートタイルがきらめく校舎の屋上で吼えていた。 「当麻の、クソッタレがぁっ!」    底抜けにお人好しの空良のことだ。もうひと押し、いや、ふた押しすれば確実に「うん」と言っていた。なのに現実はトンビに油揚げを地でいって、俺は語り草になるレベルの笑い者だ。  武流が、地団太踏みまくりの大和の足下でひっくり返っていた。あくどい秘策を授けて、それが失恋への序曲を奏でる形になった報いに鉄拳を浴びて、片目の周囲に青たんをこしらえた姿で。  校長室から譲り受けた、いささか古ぼけた応接セットに話を戻そう。  大和が恨み節をがなっていた折も折、当麻は呪いの藁人形に釘が打ち込まれたように背中がぞくぞくするものを感じた。  クシャミが出ると、 「大変、僭越ながら看病いたします」  うんしょ、とソファに寝かしつけてくれようとする力を利用して、反対に膝の上にさらい取る。  改めてくちづけて、ふっくらした輪郭を舌でなぞりながら思う。世界中のどんなスイーツより、適度な弾力があるこの唇のほうがまろやかだ。  舌で結び目を割りほぐし、すばしっこい小魚のように逃げ回る舌を強引に搦め取ると、スラックスの中心がもぞりと蠢いた。 「念のために確認するが、バックヴァージンをいただいてもかまわないんだね」 「男に二言(にごん)はないもん、だから、じゃんじゃんもらってください」  それを聞いて内心、唸る。ぽいぽいと荷物を放り投げるジェスチャーを交えて即答するあたり、セックスというものじたい、本当の意味では理解していない可能性がなきにしもあらずだ。  もっとも当麻自身、童貞上等、この身を生涯、己に捧げて悔いなし、と豪語してきたクチだ。  図らずも主導権を握ることになって正直、不安の色は欠かせない。見切り発車で、果たしてちゃんとできるのだろうか? だが、しかし、と自分を奮い立たせる。  無敵王子の名にかけて必ずや合体にこぎ着けてみせる。

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