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第131話
ナルシスト時代からの習慣で手指のケアは欠かさない。置き傘ならぬ置きハンドクリームに、まさかこんな出番が来るとは。
「以降の段階では、協調の精神がいっそう大切だ」
そう鹿爪らしげに前置きする当麻より、空良のほうがよっぽど肚が据わっていた。平たく言えば〝先輩とイチャイチャうれしい〟のなせる技だ。
ソファの奥行いっぱいに足を広げて、ホットスポットをさらけ出す。
「ぅ、ひゃっ!」
当麻は深呼吸ひとつ、漆器に螺鈿 細工をほどこす職人のように慎重な手つきで襞を解き伸ばしていった。
そして内側にも外側にもハンドクリームをたっぷり塗り込めたうえで、つぷり、と指を沈める。たちまち内壁が指を食むように狭まり、粘膜がしなだれかかってくる感覚は病みつきになる心地よさだ。
無意識のうちに舌なめずりをする。この、複雑に蠢く孔でひとつに結ばれしだい、全身が蕩けるような極上の快感が味わえるに違いない。
「みゅ、ぁあん……」
痛みを与えてしまうかもしれない、と案じたのは杞憂に終わった。艶を帯びた声が耳朶を打ち、俺は前戯も器用にこなす、と微笑 った。
時計回りに、あるいは反時計回りにかき混ぜるのに合わせて、ねだりがましく細腰が揺れる。ゆるやかに後ろをいじりながら前に回した手でペニスをくるむと、ぐちゅりと蜜がさざめき、愛しさと欲望が共につのる。
「指を増やしても平気か」
「望むとこ……ん、おれだって気持ちよくしてあげたいのに、ズルいです……」
と、ちょっぴり恨みがましげに横目で睨み返してくる。〝可愛い〟に〝婀娜 っぽい〟が加わった場合の破壊力は計り知れない。実際、ぴゅぴゅっと何滴かガマン汁がしぶいた。
どうどう、とムスコに言い聞かせているところに、話し声が風に乗って聞こえてきた。
当麻は、ぎくりと戸口を振り返った。校内で愛の営みに及ぶことじたい危険と隣り合わせだ。
だいたい有終の美を飾る行事と位置づけてきた夏至祭をそっちのけで恋人と……、
「先輩? 顔が真っ赤です」
「別に、なんでもない」
指を出し入れして、はぐらかす。〝恋人〟という響きの甘やかさに照れた自分に照れたのは内証だ、と思う。
とにもかくにも恋の暴走特急は、ひた走るのみ。
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