136 / 137

エピローグ

    エピローグ  黒板の右端に七月八日火曜日と書いた。その下に、小沢空良・小沢大和と並べて書き加える。   空良は指をこすり合わせてチョークの粉を払い落とすと、大きく伸びをした。  すると視界の隅で、きらめくものがある。それは小ぶりのトロフィーだ。グダグダっぷりが逆に支持を集めて〝チンデレラの憂鬱〟は審査員特別賞に輝いた。トロフィーにまつわる思い出話は、苦笑交じりに語り継がれていくだろう。  空良は教室の後方へ行くと、サブ黒板を拭き清めるついでに、棚の上に飾られているトロフィーの埃を払った。  クラスメイトの誰かがその情景を目的していたら、スラックスを体操着に穿き替える羽目に陥っていた。しかもノーパンで。  なぜなら無意識というのは、時として罪作りだ。トロフィーを縦横斜めに動かす手つきは、ペニスをしごくさいのそれとそっくりだ。  ともあれ日直のルーティーン、終了だ。例によって例のごとく一緒に登校してきた大和は、窓辺で物憂げに失恋ソングを口ずさむ。ぎ、ぎ、ぎ、と錆びついたロボットのような動きで向き直った彼は、さりげないふうを装って切り出した。 「おまえ……その、あれだ。そろそろ当麻から愛想尽かされてねぇか」 「まっさかぁ、ゼッコーチョーだもん!」  空良は高々とピースサインを掲げた。  生徒会が新体制へと引き継がれて以来、当麻は受験勉強に本腰を入れはじめた。放課後は予備校に通う彼とは、もっぱら昼休みに屋上でお弁当デートを楽しみ、蜜月を満喫している。  エッチにおけるポジション争い──端的に言えば上か下か問題についても解決策を編み出した。その都度ジャンケンで決めて恨みっこなしよ、だ。  目下のところ空良の八勝二敗で、その戦績にはある法則が関係している。当麻はチョキを出す確率が高い。本人が気づいていない以上、言わぬが花だ。

ともだちにシェアしよう!