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第5話*
「ケーキの焼き方を教わってただけですっ!」
「……は?」
途端、聖司の律動がピタリと止まった。
稔は乱れた呼吸のまま、一生懸命説明した。
「あ、明日は……六月二日は、聖司さんの誕生日だから……自分でケーキ焼いてお祝いしたいなと思って……。でも、何回レシピ見て焼いても失敗しちゃうから、お菓子作り得意な子に、コツを教わりに……」
「……本当か、それ?」
「本当です……。なんなら冷蔵庫、見てみてください……」
ずるりと剛直を引き抜き、聖司は冷蔵庫を開けた。中には、やや不格好なスポンジケーキが堂々と鎮座していた。その横には小さなボウルに入った生クリームが冷やしてある。
「昨日やっと成功して……今日トッピングの練習しようと思って……。おれ、不器用だから何度も練習しないと上手くできなくて……。明日までになんとか美味しいケーキに仕上げたかったから、それで……」
「…………」
「すみません、聖司さん……。勘違いさせるようなことして、ごめんなさい……」
聖司は小さく溜息をついた。冷蔵庫のドアを閉め、無言のままこちらに戻って来る。
「聖司さん……?」
無表情でこちらを見下ろして来る聖司に、少し不安を覚えた。
彼は一体何を思っているのだろう。怒っているのか、呆れているのか、それとも……?
「まったく、お前ってヤツは」
言うやいなや、再び熱いものをねじ込んできた。一気に最奥まで貫かれて、またもや視界が白く灼ける。意識が朦朧とする。
「んあっ、ああ……あ、あ……」
「ふふ……また射精なしでイったか。今度こそどういう感覚かわかったんじゃないか?」
「は、はひ……」
「まあ個人的にはどっちでもいいけどな。お前をお仕置きできれば、それで」
そう言いながら、聖司は指で顎を持ち上げて唇に優しくキスしてくれた。
たまに与えられるアメのようなご褒美に、稔は歓喜した。激しく抱かれるのも興奮するけど、ほんの少し優しくされるとそれだけでキュンキュンしてしまう。ますます聖司に夢中になってしまう。我ながら、単純だとは思うけれど……。
「聖司さん……」
甘い快感に溺れそうになり、稔は聖司にすがりつこうとした。けれど、両手首を後ろで縛られたままでは前に回すことができない。
「聖司さん……手、外してください……」
「何故だ? 縛られるの好きじゃないのか?」
「好き……ですけど、外して……お願い……」
すると聖司は「仕方ないな」と呟きつつも、椅子の後ろに回されていた両手の拘束を解いてくれた。
両手が自由になった途端、稔は聖司の背中に抱きついた。
縛られたままもいいけど、やはりこうして抱き合うのが一番いい。好きな人とひとつになれる幸せを、より深いところで感じることができるから……。
「ああ……聖司さん……」
聖司の唇に吸いついたら、彼も積極的に応えてきた。
湿った粘膜が擦れ合い、ぴちゃ、と音を立てた。温かく濡れた感覚が心地いい。二人の唾液が混ざり合い、唇の端から溢れてこぼれる。聖司の吐息が頬に触れ、より官能が掻き立てられる。
二人の腹の間で擦られ続けていた陰茎も苦しそうに震え、「もう限界」と叫んでいた。
「聖司さ……もう……」
言外に「イかせてください」と訴えたら、聖司は体液で萎れたこよりを引き抜き、根本の紐を緩めてくれた。
これでやっと熱を解放できる。そう思い、稔が喉を鳴らした時、
「稔」
今日初めて聖司が自分の名を呼んだ。ドキッとして彼を見つめた。
至近距離で見た聖司の目は、今まで見たどの目よりも澄んでいた。
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