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 普通の客もちらほらと姿を見せ始めた頃、ヤクザ男はちゃっかりと店に居座って焼酎を呷っていた。  「チッ、枝豆追加しろや! 遅ぇんだよ!」  ガン、と叩きつけるようにグラスを置いてスタッフを呼び付ける。なぜか酒よりも枝豆を消費するペースの方が多く、従業員は何度も冷蔵庫を開閉させられていた。  買い出しに出ていたモモが戻ったので、つまみを出すのには困らなかったが、ヤクザ男はとにかく注文が多かった。  「こっちは待たされて苛々してんだ、ちんたらしてねぇで用意しろ!」  店にいるのがたまたま理解のある常連客ばかりなのでみんな目を瞑ってくれているが、こんなに空気を悪くする輩に長時間いられるとなかなかに辛い。  「モモちゃん、グッジョブ。よく枝豆を大量購入してきてくれたわね」  そんな中、次々と枝豆を出しながらミフユが囁くと、傍で他の客の酒を作っていたモモは顔を顰めた。  「ミフユさん、あの人、めっちゃ迷惑じゃないですかぁ? なんで追い出さないで接客してあげるんです?」  「そりゃ他のお客さんには申し訳ないけどさ、今日無理やり追い返して明日からも粘着されたら厄介じゃない」  肩越しに男の様子を窺いながら囁く。今夜だけ店に居座らせて、如月美冬なんて男がここに現れることはないのだと気付かせれば、満足して出て行ってくれるだろう。  説明してやるとモモも理解してくれたようで、「なるほどぉ」と感心していた。  「でも、早く帰ってくんないかなぁ。パピ江もキャメロンもビビッちゃって、可哀相」  「少しの辛抱よ」  「そもそもキサラギミトウって誰なんですかね? そんなお客さん、うちの店に居たかなぁ」  「それは……」  ミフユの本名は創業者のママしか知らないので、モモがそう訊ねるのもおかしくない。教えてやるべきか否か逡巡していると、よく通る低い声が不機嫌そうに呼んだ。

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