7 / 191

 「おい、酒。日本酒とかあんの?」  「ああ、ありますよ~! ウチ結構こだわってるから」  ミフユが応えて、棚に並べられたボトルを手に取った。モモに目配せして、平静を装って接客するよう指示する。  「お客さん、お酒は強い方? 度数高いのでもイケる?」  「飲めなきゃナメられるっての」 (いちいちウッゼェ……!)  こんな奴だったっけ、と記憶にある男の姿を思い出しながら酒を用意していると、背後から声をかけられた。  「お前、名前は?」  「……ミフユですぅ」  探るような視線を感じて、危機感を抱く。怪しまれている。  「本名は」  気まずさからサングラスを指で直していると、続けざまに尋ねられた。まるで警察の尋問だ。  「ごめんなさいねぇ。ここは昼職やってる人間も多いから、そういうの公開するのはご法度なのよお」  そうか、とあっさり引いた男に、ミフユは疑惑を晴らすようにあえて自分から話しかけた。  「その如月って人は、お友達? それともお仕事関係?」  借金の取り立てでもするのか、と茶化してやろうかと思ったが、自分から素性を明かしていない男をいじるのは危険だ。  思いとどまって何気ない雑談の雰囲気でたずねると、男はずっと寄っていた眉間の皺をふっと解いて、少しだけ表情を和らげた。  「さあな。どっちも……  しいて言えば、前者かな」  「……そうなの」  場の空気が和らいだのを察して、キャメロンが会話に入ってきた。  「お兄さん、お仕事なにしてるの?」

ともだちにシェアしよう!