「なんでそう思う？」 　上目遣いに見つめられ、ミフユはグラスを拭くふりをして視線を逸らした。 　「……きっと、何か理由があったから組を抜けたのよ」 　「ンなことは分かってんだよ。あいつが理由もなしに俺を置いて組を出たりするか！　テメェにあいつの何が分かる？」 　「だから、その理由って何って話よ。 　そういうキナ臭い話にばかり巻き込まれるのが嫌で飛び出したんなら、見つけたって戻りたがらないんじゃないの？」 　「ちょっと、ミフユさん」 　キャメロンが困惑して腕をそっと掴んでくる。 　この仕事の鉄則は、けっして客に対してムキにならないこと。 　食ってかかるような言い方をするのは言語道断で、ベテランのミフユがそんな姿勢をとることは不自然極まりなかった。 　「てめー……」 　「ごめんなさい。アタシ、ちょっと酔っぱらっちゃってんだわ。口が滑ってしまったかも」 　ぎこちない笑みを浮かべて、空いていたグラスを下げる。追加の酒は何がいいか尋ねて、水割りを作り始めた。 　「枝豆も新しいの出してあげるから。一皿サービス」 　「……おう」 　自腹で奢ることで穴埋めしてから、作った酒とつまみを出す。 　仕切り直しに煙草を咥えた男を見て、火を点けてやることにした。 　「あ、火どうぞ」 　口にしながら、内側の台に置いていた自前のジッポを取り、蓋を開ける。 　火打石を鳴らしてぼっと火をともすと、男の口元にそれを近付けた―― 　「ああ。ったく、禁煙中だってのにテメェのせいで――」 　火に気が付いて、そこに煙草の先をもっていこうとした男は、 　「――――――」 　切れ長の鋭い目を大きく見開いて、ジッポを凝視した。