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二人の間にカウンターがあるのもお構いなしで引き寄せられ、腹が作業台にめり込む。うげぇ苦しい、と目を瞑ったミフユに、更なる弾劾がなされた。
「てめぇこんな所で何してやがる!?」
「ちが」
「てめぇだろ!!」
――ガシャン!!
カウンターを殴りつけた衝撃で、グラスが倒れる。大きな音に女性客が「ひっ」と息を呑んだのが聞こえたとき――プッツン、とミフユの中の何かが切れた。
「……いい加減になさい」
「あ?」
カウンターを飛び越え、一息に男の上に乗り出たミフユは、掴まれた胸ぐらを握り返して――――
「フンッ!」
男を、背負い投げた。
「おあ――――――!?」
ズッダァアアンと今日一の騒音を立て、男は床に叩き付けられたのだった。
「あーあ、もお……」
自分は華麗に着地し、パッパッと手を払って、周りを見渡す。
すっかり白けてしまった場の空気を憂い、「ごめんなさいね」と苦笑した。
「この子はアタシが連れてくから。皆はここで飲んでて。
今日は奢りよ、お騒がせしたお詫び」
次にぽかんとしているキャストを見て、ひらりと片手をあげる。
「じゃ、モモちゃん。アタシちょっと抜けるから。お店頼んだわね」
「えっ? あ、ハイ!」
突然声をかけられたモモは咄嗟に居住まいを正すが、ヤクザを引きずって店を出て行くママの背中に声をかけた。
「いいですけど、帰って来たらぜったい詳しい話聞かせてくださいねー!」
ミフユはそれに振り向かないまま手を振って応え、バタンとドアを閉じた。
しぃんと静まり返っていた店内が、にわかにざわめきだす。
「すっ……ごくなかった!? 今の!!」
「ほんと! ママ身のこなし軽すぎ!」
キャメロンがモモの肩を叩いて、そわそわと身を揺する。
「怒らせたらやばいとは聞いたことあったけど……タダ者じゃないわね、あの動き」
「しかもあのヤクザと知り合いっぽかったじゃない? ママがキサラギさんだって……」
「気になるわぁ~」
二人が去った後の店で、残された者たちが『うんうん』と神妙に頷き合った。
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