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店を出たミフユは、伸びていた男をとりあえず人目のつかない建物の陰に放り込んでその傍らにしゃがみ、男が意識を取り戻すのを待った。
「う……」
仰向けに転がされた彼は、眉間に深い皺を刻みながら呻く。ぴくりと肩を動かして、それから、ゆっくりと瞼を開いた。
「お目覚め?」
「痛ってぇ……」
のっそりと上半身を起こした男は、怒っているような笑顔でミフユを見た。
「こんな目に遭わされたのは腹立つところだが、おかげで確信したぜ……。俺相手にここまで勝手ができるのは、如月しかいねぇ。
やっぱりテメーが俺の探してた相棒だ」
もう他人のふりは通じないらしい。
はあぁ、と息を吐き出したミフユは、両手を挙げて『降参』のポーズをとる。
「そうよ。アタシが如月美冬 。
アンタ――――
伊吹 ちゃんでしょ?」
「やっぱり……って“伊吹ちゃん”ってなんだよ!」
ガァッと牙を剥いた男の胸ぐらを掴み返して、ミフユはドスの効いた声で囁く。
「アンタは変わらないわね」
ニコニコ、接客の基本である笑顔は完璧だ。だが――剣幕はすさまじい。
「おめーは変わりすぎなんだよ……」
彼はやや気圧されながら、小声で「つか“アタシ”ってなんなんだよ……」とぼやいていた。
「八年ぶりかしらね。それだけあれば、人間変わるもんよ」
師走伊吹 。
男は、ミフユの高校時代からの友人だった。
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