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「提案でしょ?」
「そうだ。
俺は――つうか……俺たちは。
お前に、鳳凰組に戻ってきてもらいたい」
逸っていた気持ちが、スッと冷える。
「……戻る? ほんとに今さらじゃない?」
「まず話を聞け」
伊吹は、ジャケットの裏から小袋を取り出し、ミフユに放った。受け取ってみると、中には赤い結晶が詰められている。
「嫌な予感がするわ」
「そいつは、最近流行ってるクスリだ」
「なんてモン寄越すのよ!」
ミフユがすかさずペッと放り返すと、伊吹はそれを片手で受け止めた。
「何、うちはクスリにだけは手出さないって方針だったじゃない! 悪魔に魂売っちゃったの!? やぁんショック!」
「うるせえ! 違うわ!」
「痛ッ!」
肩を縮めて竦みあがると、太腿に強めの足蹴りを喰らった。革靴なので靴先がめり込んで痛い。
「ったく……調子が狂う」
ガシガシと頭を掻いて、伊吹は小袋を空中に翳す。
透明なビニールの中で、赤い塊がきらりと輝く。
「【禁じられた果実】 。そんな名称で呼ばれてる」
「【禁じられた果実】 ……」
「合成麻薬 の一種だ。アッパー系のクスリでは一番人気で、覚醒剤にも劣らない高揚感が得られるらしい。
それだけ強烈な効果だから依存性も高くて、一度手を出しただけで中毒になるって話だ」
「そんなヤバいモン、何でアンタが持ってんのよ……」
険しい表情を浮かべた伊吹は、赤い結晶を睨めつけた。
「ウチのシマでこれを流してる奴がいるんだ。現にこいつは、鳳凰組系列の風呂屋の嬢が持ってた分だよ」
袋を懐に仕舞って、伊吹がミフユを見つめる。
「俺は、彩極組 の仕業だと踏んでる」
「彩極組?」
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