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 伊吹は眉を寄せた。  「知らねぇか。三年前に玉鸞(ぎょくらん)会から分裂した組だ。重岡耕造が組長やってる」  「分裂したのォ!? シゲちゃんが組長!?」  「一大組織の元・若をシゲちゃんとか言うな」  玉鸞会は、ミフユと伊吹が在籍した鳳凰組の、親組織と対立していた団体だ。  「つまり、そこから派生した彩極組っていうのも、敵さんなわけね」  「人の縄張りで勝手な真似したガキに、お灸を据えてやりてーだろ」  フンと笑いかけられて、今度はミフユが眉を顰めた。  「それで、なんでアタシんとこに来るのよ」  「『なんで』?」  すっと笑みを引っ込めた伊吹は、真剣な目でミフユを見据えた。  「俺とお前が組めばすぐ解決するからだろ」  「嫌よ」  「!?」  即答すると、断られるとは思わなかったのか鋭い目がぎょっと見開かれた。  「ああ!? なんでだよ!? うちの組がナメられてんだぞ。ほっとけねえだろうが!!」  「『うち』じゃないわ」  冷たく突っ返す。  ミフユは腕組みして、ピンと人差し指を立てた。  茫然としている伊吹に、懇々と説明する。  「いい?  過去がなんであれ、今のアタシは大冒険ってオカマバーで働いてるミフユなの。  ヤクザの抗争に明け暮れてた鳳凰組の如月美冬じゃない」  「何言って……お前は如月だろうが」  迷いもせずそう言う彼に、微かな憤りを感じた。  「過去の自分とは決別したの。 ――帰って。店の客でもないなら警察呼ぶわよ」  「おいっ!」  すっくと立ち上がって、路地裏を出る。  急いで後を追ってきた伊吹に腕を掴まれたが、半ば叩きつけるように振り払った。  「逃げんのか!」  「っさいわね! いいからほっといて――」  がなりつけた時、  「ま、ママ~!」  『!?』  二階からカンカンとヒールを鳴らしながら、キャメロンが鉄階段を下りてきた。

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