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「あっいたいた! よかったっ」
「メロンちゃん? どうしたの、お店にいろって言ったじゃない」
こちらに駆け寄ってきたキャメロンは、二人の間に漂う重い空気感に少しためらいを見せたが、すぐにミフユを見つめて「大変なのっ」と店先を指差した。
「ママが出て行ってすぐ、モリリンが来てね」
「あの子が?」
モリリンとは、数週間前から体調不良で欠勤しているキャストだ。電話には出るが、休み始めてから一度も顔を見ていなかったので、心配していたのだ。
「よかったじゃない」
「いや、それがね……様子がおかしくて」
「え?」
眉を顰めると、キャメロンは何か言おうとしてアッ、と声を上げた。
「出てきた!」
店の出入り口のほうを見上げると、中から金髪の女が出てきた。口元のほくろが特徴的なので、みすぼらしいキャミソール一枚でもモリリンだと分かったが、ミフユは激しい違和感を覚えた。
「アンタ……? ちょっと、どうしたの!」
声に反応して、彼女が俯いていた顔を上げる。げっそりとこけた頬や血走った目に異常を感じ取って、ミフユは顔色を変えた。
「何があったの?」
大股で階段まで駆け寄っていく間に、上で他のキャストがモリリンを引き止める。
その瞬間だ。
「――ギャアアアアアア!! 虫ッ、虫ぃいいいい~~!!!」
「モリリン!?」
金切り声を上げた彼女は、同僚の手を薙ぎ払って暴れ出した。
「ごめんなさっ、ごめんなさいいい!! あたしが何したってんのよォ、み、ミフユさんっ……助けてミフユさぁん!!」
「ちょっと、こんなとこで危ないって!」
必死に引き止めてくれる仲間の手を振り払いながら、モリリンは金髪を掻き毟る。ガリガリガリガリと異常な激しさで掻き乱して、不安定に揺れる。足元を見ると裸足だった。
(連絡つかない間に何があったってのよ……!?)
「ちょっと待ってて、今そっち行くから……っ」
このままでは危ない。
本能的に察知して階段に足をかけたが、ほぼ同時にモリリンが絶叫して、つるりと足を滑らせた。
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