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 実際は伊吹がいる極道界隈にもそういった話は山ほどあるが、普段本人はそんな世界とは離れたところで生きているのだろう。  「性別って、男か女かのニ種類じゃないんですよ」  伊吹の服を整えながら、アキが静かに言う。  二十一にしては深い含蓄の秘められた言葉だったが、伊吹はポカンとして言ってのけた。  「それくらい知ってるよ。  人間には、男と、女と、真ん中のオカマがいる」  「エヘヘ……」  「アキちゃん。こういう奴なのよ」  ミフユは完全に匙を投げて首を振ったが、彼女は穏やかな笑みを浮かべたまま伊吹に提案した。  「師走さん。  今日、閉店後のうちの様子を見てくださいませんか」  「あ?」  伊吹は、話の方向が見えず困惑する。だが、暫く逡巡すると、すんなり頷いた。  「あー。元々、如月に内密な話がある。一旦帰って、また朝来りゃいいだろ」  スーツも着替えなきゃならねぇことだしな、と睨まれたのは軽く流して、ミフユはアキに視線を送った。 (大丈夫なの、アキちゃん?) (大丈夫です、私に考えがあります)  お互い声には出さなかったがそんなやりとりが行われた――――ような気がする。 ・・・  早朝六時過ぎ。  あたりも明るくなりはじめて、朝陽が目に痛い頃。  【大冒険】の店じまいを終えて、キャストたちはそれぞれ帰宅の途につく。  ミフユが裏口のドアを開けると、階下に伊吹の姿があった。  「もう居たのね」  声をかけると、伊吹は吸っていた煙草を地面で揉み消してこちらを見上げた。  堂々たるポイ捨てだ。  「ちょっと、うちの前汚さないでよ。携帯灰皿使って!」  「ああ、今度な今度」  ひらひらと片手を振ってはぐらかし、伊吹はコンクリートの壁に凭れかかった。  出てくるキャストたちを眺めて、気怠げに口を開く。  「で、アキ? ってのは、なんで俺を呼び付け――――てッ!?」

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